▼ 2008/09/15(月) 待ち人
コンセプトテーマ曲:「真夜中のメリーゴーランド」作詞:リリィ・桑名晴子 作曲:桑名晴子 歌:桑名晴子
原作「祭囃し編」後の夏の一コマを詩音視点にて……
昭和58年の暑い夏の日。
今日はお姉や部活メンバー一同と一緒に遊園地まで遊びに来ています。
一人だったら絶対に来ないような田舎っぽさ丸出しの小さな遊園地なんですけどね……お姉と私はこの夏休みが終わったら本格的に受験準備に入らなければいけませんからこの夏休みは後悔する事の無いようにってんで遊びまくりです、てへ。
移動手段はレンタカーのワゴン車ですよー、運転手は葛西です。
しかし……あの梨花ちゃまのハシャぎっぷりと来たら……はぁ…今まで私が知ってた梨花ちゃまとは別人みたいですね。
それでも梨花ちゃまが元気だと沙都子もうれしそうだから良いんですけど。
沙都子の笑顔は今の私の一番の活力源なんですからね。
そりゃ、本当は……悟史くんのちょっとはにかんだような笑顔が一番ですよ? でも、悟史くんはまだ入江診療所の地下の特別室で眠ったままですから……寂しいですけど、仕方有りません。
羽入さんは何故だか葛西と意気投合しちゃってますねー……まぁ甘いモノ大好き同士だから通じるモノがあるんでしょうけれど、なんか親子みたいですね、ふふふ。
お姉はお姉でレナさんと圭ちゃんの取り合いしてますねー……ムキなっちゃってもう、あははははは。
さっさと圭ちゃんに告白しちゃえばいいのになぁ……まぁお姉はこういうことのヘタレっぷりが凄まじいから無理ですかね……
レナさん、段々と大胆になってきてますからボヤボヤしてるとほんとに後悔することになっちゃいますよ? 側にいて声を掛けたら笑顔を返してくれるのに何をうじうじしてるんでしょうね、ほんとに……私なんか眠ってる悟史くんに延々と語りかけるだけしか出来なくて時々泣きたくなるほど寂しいんですよ?
今、私は「ちょっと疲れました」とウソを言って木陰のベンチで一人ボーっとしながら、目の前の回転してるメリーゴーランドなんかを眺めてます。時々、カップルが仲良さそうに乗ってはしゃいでるのをみてうらやましがりながらですけど。
さっきはつい、悟史くんの事考えてしまって泣きそうになっちゃいました。
優しい人ですから、きっと目が覚めて体調が元に戻った後にデートがしたいとか言ったらこういう所に連れてきてくれるかなぁなんて、ね。
はぁ……居る場所がわかっていて、なおかついつになるかわからない目覚めを待ち続けるのって結構しんどいです。
沙都子にはまだ本当の事を伝えちゃいけないって監督には言われちゃってますからねー。もちろん信用と信頼、口の堅い詩音ちゃんですから約束は守ってますよー。
あ……
でも、よく考えたら……悟史くんにとっては私ってよくわからない存在……なんですよね……初めて出会ったときもそうですけど、一緒に過ごした僅かな時間のほとんどは私、お姉として振る舞ってた時ですから……
あちゃー、これはまずいですね……まず悟史くんにお姉と私の区別を付けて貰うようにしなきゃいけません。
それに沙都子にはもう謝って許して貰ってるから良いですけど、頭に血が上った状態で悟史くんの目の前で沙都子に酷いことしちゃってますからねー……誤解されてるかもしれないってのを忘れちゃってました……
うわっ、だんだん自信無くなってきちゃいましたねー……もし、悟史くんがお姉のことを好きだとかって話になってたらややこしい事になっちゃいますよ……まず、私がとっても困ります! 悟史くんを好きなのはお姉でなくて私、詩音! キレイな方、優しい方、お淑やかな方の園崎詩音ですよ!! お姉が好きなのはスケベで鈍感で騒がしい圭ちゃんですしねー。
お姉だって困るでしょうねー……私が悟史くんと出会う前とか圭ちゃんが引っ越してくる前だったらそれはそれでうれしかったかもしれませんけど……ふふ、お姉は私が気が付いてないと思ってるみたいですけど、ちゃーんと知ってますよー! お姉も最初は悟史くんの事ちょっと好きだったみたいだって。
双子だもん、わかりますって。私だって悟史くんの事がもしなかったら……きっと圭ちゃんの事でレナさんとお姉が牽制しあってる間に……ってなってたっておかしくないんですから。
けど、どうしましょうかねー、本当に。
まず悟史くんが目を覚ましてくれなきゃどうしようもないんですけど……目を覚ましたら覚ましたで今度は退院に向けてのリハビリとかあるんでしょうし、私の知ってる悟史くんなら何よりも沙都子の事が最優先ですからタイミング間違えて告白とかしちゃったら『むぅ……ごめんよ……今は沙都子の事もあるし、余裕ないんだ。ごめんよ』とかってフラれちゃう可能性だってあるじゃないですか!
リハビリを手伝ったり、沙都子の面倒を代わりに見たりってのを甲斐甲斐しくやるのは良いとしても……それを悟史くんが知ったら、これまた私の知ってる悟史くんなら私に『好きです』って言われたら断らないんですよね、きっと……恩義があるからとか思っちゃいそうですもん。それは私が望んでる形とは違いますよ。
それにそもそも、悟史くんが『沙都子の事、頼むね』って言った相手ってお姉のフリした私じゃないですか!
ものすごく不味いことばっかりですよー……困ったな……どっちに転んでもお姉より私の方がややこしくて大変じゃないですか、これ。
睡眠学習でしたっけ? あれの要領でなんとかなりませんかねー……毎日お見舞いの度に、耳元で『北条悟史と園崎詩音は恋人同士』とか『優しいお淑やかな詩音が大好き』とか『魅音だと思ってたのは全部詩音』とか……
何をおバカなお姉レベルの事言ってるんですか、私は……良く考えろ、詩音……冷静になれ! クールになるんだ!……こんなに暑いのに無理ですって……3秒でギブですよ。
そうだ、「困ったときは相談する」ってのが基本ですよね!
って……相談するにしても……誰にするかですねー。
まず監督に相談するとしても『大丈夫ですよ。きちんと詩音さんのお気持ちは悟史くんに伝わっていると思います』しか言いそうに無いですねー。葛西は……これもダメですねー、『私は詩音さんが為さることに口を挟んだりはいたしません』とか言って逃げそうですよ、うん。
他に相談すると言っても……お母さんや鬼婆ではちょっと厳しいですね……あれ? 他に悟史くんの現状を知ってる人間ってもう居ないじゃないですか。ちょっとー……相談する相手も居ないんですか私には!
はぁ……興奮しても仕方ないですね。
こうなるとなるようにしかなりません。私は私の出来ることを精一杯やりますよ。だってまずは悟史くんが目を覚まさないことには何の進展も無いんですから。
そう言えば、穀倉には看護学校がありましたね……まずは白衣の天使になって悟史くんの事を全部私が面倒丸ごと見ちゃえるようにするのも重要ですね……
それから空いた時間は全部、今まで以上に悟史くんの為に使わなきゃいけませんね。私の事よりも悟史くんと沙都子の事をきちんと考えなゃダメです。見返りや私の希望なんて求めてちゃダメですよね。
ふぅ……大変ですねー……頑張らないと! ファイト、詩音!
うん、悟史くんが私のことをどう思ってるかは、それがわかってからで良いです。
大事なのは私が悟史くんをどう思ってるかじゃないですか。
自分に素直じゃなきゃダメですよね。打算的な女になっちゃそれこそ悟史くんに嫌われちゃいます。
「詩音さ~ん、いつまで休んでらっしゃいますの~っ?!」
あ、沙都子が呼んでます。
「こらー、沙都子ー! 『ねーねー』って呼びなさいって言ってるでしょーっ!!」
みんなも戻ってきましたね。
「こりゃ罰ゲームでカボチャだねー、ぎゃはははははは」
「ちげぇねーぜ、わははははははは」
「はぅ……困ってる沙都子ちゃんかあいいんだよ、だよーっ!」
ありゃ、意外と梨花ちゃまはクールですねー、さっきまでと違って。
「沙都子、カボチャは甘くて美味しいのですよ、にぱー★」
葛西も羽入さんを連れて戻ってきましたからこれで全員揃いましたね。
「あうあう、甘くて美味しいものは世界の至宝なのですよー! そうですね、葛西?」
「はぁ……」
悟史くん、ずっとずっと待ってますからね。
早く目を覚ましてくださいね。
沙都子はこんなに元気にしてるんですよ。
貴方の知らない圭ちゃん、羽入さんってって新しい仲間も増えてるんですよ。
たっくさん話したい事、あるんです。
だから……待ってますから早く帰ってきてくださいね。
- TB-URL(確認後に公開) http://dtany.net/066/tb/
