▼ 2008/09/15(月) 記念日
コンセプトテーマ曲:「アイリーン(Irene)」 作詞:康 珍化 作曲:安部恭弘 編曲:清水信之 歌:安部恭弘
いわゆる圭魅もの第1弾。
二人のあるかもしれない未来の姿。
このシリーズの圭一は少しもかっこよくありません。
ヘタレで鈍感でノンデリカシーの三冠王状態。
でも、家族や友人のためにいつでも一生懸命で、誰よりも魅音を大切に思ってるだけの普通の男です。
今日も仕事はぶっちゃけキツかった……へとへとになって家にたどり着いたのはもう日付が変わろうとしていた頃だった。自分でもこんな状態で良く、なんのトラブルも無く車を運転して帰ってきたもんだと思う。
きっと今の俺を見たら、あいつらは好き放題の事を言いやがるんだろうなと思う。そう、それほど俺はくたびれたサラリーマンそのものって風体だった。
大学を出て、この雛見沢に戻ってきた俺は興宮にある園崎系列の会社で働いて、もう5年になる。鹿骨市の中心街や穀倉あたりなら他の選択肢も有ったかもしれないが、さすがに雛見沢や興宮界隈じゃ限度ってものがあった。もっとも俺に選択肢があっただけマシだと言ってる人が居るくらいなんだがな、実際は。
いや、贅沢は言っちゃいけないな……本来なら俺の年だったらやっと一人前の扱いをして貰えるかどうかってところだ。にも関わらず俺はそれなりに重要なポジションを任されてるし、俺よりもずっと年期の入った人たちを部下として使う立場にいさせて貰ってる。もちろん、給料だってはるかに年相応以上に貰ってる。
ただ、それが純粋に俺の能力が評価されての物だったらもう少し気楽なんだろうな。自分の能力に自信が無い訳じゃない。ただ、俺の評価には能力にプラスして付加価値が付いてやがるだけさ……それが重荷だとかイヤだとか思ったことは誓って無いけどな。
車を降り、正門脇の木戸を潜って玄関に向かう。案の定というか……鍵は掛かっていなかった。まぁこの家に押し入るような奴は少なくとも興宮界隈には居ないだろうぜ。
家に入り、靴を脱いでまず着替えの為に、足音を忍ばせるように部屋へ向かう。合掌作りの旧家の廊下ってのは真夜中に歩くときは結構神経を使う。わざわざ寝てる人間を起こしたくは無いからさ。
部屋のほのかな明かりが目に入る。
『まだ起きてんのか?』
そう思いながらそっと家の造りに似合わない洋風のドアを開ける。
目に入ったのは床に落ちているカーディガン。テーブルの上には手を付けてもいない料理と消えかけたキャンドル……しまった! ちくしょう……また、やっちまったよ。今日が記念日だってすっかり忘れてたぜ!
怒って泣いて、そのままソファで寝ちまったんだろうな……すまねぇ。
「でもさ、今日みたいな日くらいは電話してこいよな……」
いくら俺だって、大事な日だってわかってりゃ残業程度は得意の口先で明日に廻して、すっ飛んで帰ってくるよ。
あ……寝言だよ……ほんっとに昔と変わらないな、ははっ。
起こさないようにそっと「ごめん。ごめんな。」とささやく。本当にすまねぇな。仕事に追われていっぱいいっぱいになってるのは俺自身のせいで、おまえのせいじゃないもんな。ただでさえここんところ、なんだかんだとお互いが忙しくてすれ違ってるし、まともに会話もしてないよな。
ふと気が付くと、いつもは棚の真ん中にある写真立てがテーブルの隅においてあった……中の写真はもう10年以上も前に撮って貰った、二人の初デートの記念写真。わかってるよ……この写真がここにある意味はさ……
ソファの横に座って、ネクタイをゆるめながら寝息をたててる横顔を見つめる。
「何言っても言い訳にしかならねぇよなぁ……」
頭をバリバリと掻きむしるようにして打開策を練る。だめだ、良いアイディアなんか浮かぶ訳がねぇよ。KOOLにもCOOLにもなれねぇ!
最悪。だって、今日の件は俺が100%悪いんだもんな。
「ふにゃ……んにゃっ……」
軽く子猫が鳴くような声を上げて、閉じていたまぶたが開いていく。
「あ、悪りぃ……起こしちまったか?」
「ふぇ……けいちゃん?」
「あぁ。ごめん。本当にごめん。すいませんでした」
「ふわぁ……ほんとだよ……他の日なら良いけどさ……今日、何の日だかわかってるんでしょ?」
「いや、その……マジでごめん。わかってて遅くなったんじゃないから、余計に俺が悪い。本当にごめん」
平謝りするしか無いよ、もうこうなったらさ。
「しょうがないなぁ……あーもう!」
「なんであたしはこうも圭ちゃんに甘いんだか……」
「そりゃその……俺も似たようなもんだし、お互いホレた弱みって奴じゃね?」
「なんなら、今から地下祭具殿行くかい?」
「すいません。ほんとうにすいません」
「むー、この穴埋めは絶対して貰っちゃうからね!」
「へい、仰せのままに……」
確実に今度のボーナスはこいつへの謝罪の品々で消えるな。
「あ!」
「どうした?」
「ん、ごめんね。おかえりなさい、圭ちゃん」
「あぁ。ただいま」
「うん!」
「ね、晩ご飯まだでしょ? お風呂入ってきなよ。料理暖めなおしておくからさ!」
「さすがに作りたてに比べたらちょっと……なんだけどさ、あはははは」
「いや、充分だよ。それよりおまえはちゃんと食べたのかよ? 大事な記念日忘れてて、普通に残業して午前様で帰ってくるようなバカ亭主には、冷や飯にたくあんのお茶漬けでも充分なくらいだけどさ」
「あたしもまだだよ。せっかく用意したんだから一緒に食べたかったんだもん」
「罰としてお茶漬けだけで我慢するってんなら、そうする?」
「勘弁して下さい、魅音様。美味しい手料理を一緒に食べたいです。」
「へへ~ん、よろしい! さ、お風呂いったいった! 脱衣所に着替えは用意してあるから」
「おう、ありがとうな」
風呂場に向かいながら、今日の失態の穴埋めをどうするか考える。
そうだな、風呂から上がったら、こう言おう。
『今度の週末は久しぶりにまともな休みが取れそうなんだ。だから昔みたいにデートしようぜ!』って。
そう、あの写真の頃みたいに、お互いまっすぐ向き合おう……
それから……それからさ……未だにテレちまうというか、今更だから余計かもだが……もう一度ちゃんとお礼を言おう。
『ありがとうな、魅音』ってさ。
俺、もっともっと頑張るからさ……もっと一緒に居る時間を作れるように考えるよ。
ほんと、ごめんな……
さぁ、風呂に入ってさっぱりして、魅音の愛情いっぱいの手料理を食べて明日への鋭気を養おう!
明日から金曜まで、全力全開で働かなきゃ、土日に休めないもんな。
約束するぜ!
これからも俺はずっとおまえと一緒にいる。
一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に考えて、一緒に悩んで、一緒に喜んで!
今日は俺自身の記念日にもしよう……大切な家庭を大事にするって決意をした、記念日に。
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