▼ 2008/09/15(月) 勘違い
コンセプトテーマ曲:「白い炎」 作詞:森雪之丞 作曲:玉置浩二 歌:斉藤由貴
前原圭一と園崎魅音の二人にあるかもしれない未来シリーズ第2弾。
舞台設定は惨劇の夏を乗り越えた昭和59年のある初冬。
高校に進学して分校に行く回数も減った園崎魅音はバイト帰りのある日……
もー、叔父さんってば、もう少し考えてセール価格決めてよねぇ! 今日も結局あたしがバイトに入らなきゃならなかったじゃないのさ!
あーあ……今日は久々に分校行って、部活に乱入する気だったのにな……はぁっ……みんな元気なんだとは思うけど、どうしてんだろうなぁ……
レナは相変わらずはうはう、かあいい言ってんのかな? 沙都子は相変わらず圭ちゃんターゲットにトラップ三昧なのかな? 梨花ちゃんは……相変わらずにぱー☆とか言ってんだろうね、あははは。羽入はあうあう言いながら甘い物食べてるのかな?
け、圭ちゃんは元気……だよね? だって圭ちゃんだもんね! うん、元気に決まってる!
「あれ? けぇ……」
バス亭であたしが今きっと一番会いたかった人を見かけた気がして声を掛けようとしたあたしはそのまま凍りついた。
レナが一緒だった……二人して凄く仲良さそうに話してる。
う、うんあの二人が仲良いのはずっと前からそうじゃん! そもそも毎朝、圭ちゃんをレナが迎えに行ってる訳だし、きっと今だってあたしが分校通ってた時と同じようにしてるはずだもん、うん。それだけだって!
でも……今は待ち合わせ場所にあたしは居ないよね……だから毎朝二人で登校してるんだろうなぁ……興宮まで本家から行こうと思ったらあたしとしちゃ限界レベルの早起きしなきゃ遅刻確定だもん、朝とかに二人に挨拶するヒマも無いよ、たははは。
放課後だってなんだかんだとあるし、相変わらず婆っちゃからの財政支援は無いに等しいからバイトもしなきゃだし……うん……だから、会いにも行けないよね……最近は圭ちゃん達が受験勉強始める時期だからって遠慮して電話もほとんどしてないし……
あ、二人でバスに乗った! 行き先は鹿骨の中心街かぁ……デ、デート……なのかなぁ……
窓越しでもわかるよ……二人とも笑顔で凄く楽しそう……
そっか……今日は部活じゃなかったんだ。あははは……分校乗り込んでたらあたし、すごいマヌケだったかもだね、えへへへへ。
やだ……なんで……二人の笑顔滲んできちゃったよ……
「そっか……あたし、泣いてんだ……」
そう……だよね……だってレナは毎日朝から夕方まで圭ちゃんと一緒だもんね……
朝は圭ちゃんの家に迎えに行って、圭ちゃんが出てくるまでおばさまと世間話して。
二人で一緒に登校して、授業はきっとまだ圭ちゃんが先生の代わりだから……レナ専属の圭ちゃん先生だね。
お昼はみんなも一緒だけど、おかずのとりっこして。
午後の授業が終わったら、部活でワイワイやって。
「あたしの入る隙間……無くなっちゃってるのかなぁ……」
本家に着いて、婆っちゃに元気が無いのを見抜かれちゃった……ダメだなぁ……心配掛けちゃダメなのに
夕食もなんか砂を噛んでるみたいで味がわかんない……今日は妙子さんが夕食作ってくれてて良かった……こんな状態で作ったら婆っちゃにとんでもないもの食わせちゃうとこだもんね、あはははは……
ふと部屋で時計を見る
「まだ9時か……圭ちゃん、もう帰ってきてるかなぁ……」
「電話して『うひひ、レナとのデートはどうだったぁ?』ってチャカして聞けば良いんだよね、確かめるのなんて簡単じゃん!」
電話のところまで行き、受話器を上げて、ダイヤルを回し始める。
メモを見る必要すら無い、圭ちゃんの家の電話番号。
最後の数字に指を掛けたところで……あたしの手は動かなくなった……
「なんでよ……あと一個廻すだけじゃんさ……なんでよ……」
目の前の柱も壁も電話機も滲んで見える……
「胸、痛いよ……なんでかなぁ……」
最後の数字をダイヤルする勇気すらないヘタレなあたしは自室に戻るしかなかった。
机の引き出しから日記を取り出し、今日の分を書こうとする。
止せば良いのに遡って読み始めてしまった……この日記はちょうど分校の卒業式の日の分からだった。
日記1ページ
「明日は分校の卒業式。最後のチャンス! 明日言えなかったら……しばらくきちんと圭ちゃんに気持ちを伝える機会が無い。がんばれ、魅音!」
日記2ページ
「結局、また圭ちゃんに何も伝えられなかった……あたしのバカバカバカァ……うう……」
日記15ページ
「今日は土曜なので学校を終えた後、全力で自転車を漕いで着替えもしないで高校の制服そのままで分校に行った。みんなの部活に乱入!やっぱりあたしはこの場所とこの雰囲気が無いとダメだな。ううん……ほんとの事を書こう。圭ちゃんの姿が無い生活は退屈。一日にたった一度でも良い。圭ちゃんの笑顔が見たい! 声が聞きたい!」
日記23ページ
「今日、詩音に『ウジウジしてないで自分の気持ちをストレートに伝えたらいいじゃないですか!』と叱られた。そりゃ、行動に移せなくてウジウジしてるのは本当だし、落ち込んだからって詩音に泣きついてるのも確かだけどさ……詩音、きらぁ~い!……ウソです、ごめんなさい。いつも相談に乗ってくれてありがとう、詩音」
読み返すと大半は圭ちゃんのこと……そして勇気の無いあたしのためらいが日記のページを埋め尽くしていた。
改めて、自分の気持ちと勇気の無さを思い知らされる。
「こんなに……好きなのになぁ……」
今日の分の日記を書こうとして、頬を伝った涙が日記のページに落ちる。
「あはははは……涙で紙が濡れちゃうじゃんかぁ……日記書けないじゃん……」
無理矢理作りかけた笑顔のまま、あたしは静かに、声を上げる事もできないまま、泣いて泣いて涙で今日のページを綴り続けた……
気が付くともう朝だった。
「今日が休みの日で良かったぁ……平日だったら100%遅刻だよ……」
部屋の鏡を見て顔を確認する。
「よかった、泣き腫らした顔とかじゃなくて」
ボリボリと頭を掻きながら、婆っちゃに朝の挨拶を済ませ、顔を洗い、歯を磨き、遅めの朝食を摂る。
「今日はどうしようっかなぁ……とりあえず……散歩がてらに古手神社でも行って気分転換してくるかなぁ……」
古手神社の境内裏からの展望はあたしの一番大好きな眺め。
辛いときもうれしいときも悲しいときも楽しいときもあたしはあそこでこの雛見沢の全景を眺めることにしている。
そこには先客が居た。この古手神社の巫女、梨花ちゃんだった。
「魅ぃなのですか?」
「珍しいね、梨花ちゃんがここで一人でなんてさ、あははは。沙都子や羽入は?」
いつものノリで梨花ちゃんに話しかける。うん、今のところは順調だ。いつものあたしに戻ってる。
「沙都子は詩ぃに連れられて、興宮でお買い物なのです。羽入はお散歩だと言ってましたです」
「そっかぁ。なんかこうやって梨花ちゃんと二人きりで話すの、ものすごく久しぶりだね、あははははは」
そう、同じ御三家同士だし、仲間なのに私が高校進学以来、話す機会がほとんどなくなっているのは事実である。
「久しぶり過ぎて、魅ぃがどういう人なのか忘れそうなのですよ、みぃ……」
「ひっどいなぁ、それ! おじさんはおじさんのままだよぉっ!」
相変わらず、可愛い顔してキツい事平気で言うよねぇ、梨花ちゃん……
「寂しいのは僕だけではないのですよ、魅ぃ」
「え?」
「沙都子も羽入もレナもそして圭一も、魅ぃが居ない日々はとても寂しいのです」
圭ちゃんの名前にちょっとピクっと反応してしまう
「レナはかわいそかわいそなのです。そして圭一はもっとかわいそかわいそなのですよ」
「え? なに? どしたの?」
なんで? レナがかわいそうで、圭ちゃんはもっとかわいそうってどうして?
「昨日、圭一は高校受験の参考書を買いに鹿骨の大きな本屋さんに行きましたです」
「圭一は特に頑張らなくても合格しそうなのに一生懸命勉強してるですよ……100%確実に合格したいからだと言ってますです」
「レナは圭一について行くので精一杯なのです。だからかわいそなのですよ。にぱー☆」
昨日は参考書を買いに行っただけなんだ? デートとかじゃなくて……あ、あはははは……あたしの勘違いだったんだ!
「圭一が自分のことではなく、その場に居ないあなたの事だけしか見ていない。それを知っても圭一への想いを止められない。レナはほんとうにかわいそうな子……」
「レナや沙都子、私の気持ちすら無視するようにしてあなただけを想っているのに誤解されている圭一はもっとかわいそうだわ……」
え? なに? 今のこれって……梨花ちゃん? 空耳……じゃない……よね?
「みぃ? どうしましたですか、魅ぃ?」
「あはははは。ごめんごめん。なんか梨花ちゃんの姿した別人になんか言われた気がしてさ」
「僕は何も言ってませんですよ。圭一と会えなくて寂しいから魅ぃが幻聴に悩まされるようになってしまったのです。かわいそかわいそなのです。にぱー★」
ぐっ……なんか言い返せない。でも悔しいからなんか言い返したいんだけど……なんでだろ……言い返せない。
「魅ぃは考えすぎですよ」
「え?」
「魅ぃに足りないのは自分の気持ちに素直になることだと思いますですよ」
あれ? なんでずっと年下の梨花ちゃんにあたし説教されてんだろ、たはははは。
でもそうだよね……自分の気持ちに素直にならなきゃダメだよね。
「梨花ちゃん、ありがとね」
「何がなのですか?」
「あはははは。なんでもいいよ。うん、ありがとう」
さぁ家に帰って圭ちゃんに電話してみよう!
もう少し、気持ちを伝えるのには勇気が足りないけど……それでも一歩ずつでも近づこう!
うん、亀の歩みでもなんでも良いよね。
それがきっと一番あたしらしいんだから!
ねぇ、圭ちゃん……あたし圭ちゃんが好きだよ! だからもう少し、もう少し勇気が出るまでどうか待ってて!
園崎魅音、参るっ! あはははははは。
- TB-URL(確認後に公開) http://dtany.net/070/tb/
