▼ 2008/10/04(土) 形曝し編
前口上
「ひぐらしのなく頃に」公式サイト07th Expansionの二次創作掲示板(通称『魅ぃ板』)にて開催されている、第6回口先の魔術王決定戦というイベントがあります。
今回、訳あって参加できない立場でしたので裏口先といった気分で一本書いてみました。
ルールは「2種類のジャンルと2種類のアイテムを縛りとして、そのうちの一つずつを選択してそれをテーマに書く」というものです。
今回、引いたのはジャンル:ホラー・サスペンス、SF・ファンタジー お題:香辛料、人形でした。
リンクにもあります、「ひぐらしのなく頃に 器満たし編」を書いているMr.Dさんも同様に書いていますので二人での裏口先勝負ってところでしょうか?(笑)
もし、読んであなたの心に何か残ったら、是非にもコメントやWeb拍手で反応を聞かせてください。
ええ、Dさんとどっちの拍手が多いかの勝負です(爆)
まぁ、Dさんのと同じアイテムですがあえて真逆に書いていますし、知名度でも大幅に劣っていますから、負けは覚悟の上ですが(苦笑)
お題:人形
ジャンル:ホラー・サスペンス
あらすじ:
昭和58年の8月、夏休みでもあり、部活の部長である魅音の提案で、興宮にあるおもちゃ屋で大勢の子供たちによるゲーム大会に全員が参加した。
我らが雛見沢分校部活メンバー達にはゲーム大会を盛り上げたお礼の品が渡されたのだが、圭一が手にしたものは可愛いドレスで着飾ったアンティークドールだった。
圭一は自らのプレゼントとして魅音に人形を手渡そうとし、躊躇しながらもそれを受け取り、喜ぶ魅音であった。
人形を渡す際に起きた出来事で、決心を固めた圭一は勇気を全て絞り出すようにして魅音に好意を伝え、魅音もまた同じように精一杯の勇気でそれに応え、初々しいカップルが誕生する事になった。
しかし、その日の晩から魅音は得体の知れない悪夢に悩まされるようになる。毎晩繰り替えされる悪夢にとうとう耐えきれなくなった魅音は、信頼する部活メンバー達に夢の内容を話し、相談するのだが……
ジリジリとアスファルトさえ焦がすような太陽光線。耳障りな騒音と変わらないほどの蝉の鳴き声。幾分かいつもの年よりも短い梅雨も終わり猛暑とも呼べる気候の昭和58年の夏、興宮にある、おもちゃ屋の店内には少年少女の嬌声で溢れかえっていた。
みんなの注目を集めているのは1人の少年と5人の少女達。このおもちゃ屋に集う者達ならば誰もがよく知る、雛見沢分校部活メンバー一行であった。
「うーん、これじゃ決着がなかなか付かないね」
汗で額に張り付く前髪を物ともせず、年長と思われる少女が疲労感を滲ませながら呟く。
「はう~、後ちょっとなんだけど、なかなか勝てないんだよ、だよ」
涼やかな白いドレスを身に纏った少女がそれに続く。
「皆様で牽制しあっているのがいけないんでございますのよ。どなたでも結構ですから、さっさとお諦めなさいませ!」
一際元気で明るい声で他のメンバーを挑発する少女。
「みぃ……ほんとうにいつまでもこのままでは埒が開かないのですよ」
最も小柄な人形のような少女が似つかわしくないぼやきを漏らす。
「あう、あうあうあうあう、負けて脱落して罰ゲームはイヤなのです、イヤなのです!」
他の少女達とは異なる雰囲気を持つ少女は呪文のようにさっきから同じ言葉を繰り返している。
「くそっ、負けたくねぇ! 策は無いのか、策は?! COOLになれ!、COOLになるんだっ!」
言っている言葉とは裏腹にヒートアップし続け、口にせずともよい事まで言葉を紡ぐ少年。
ゲーム大会で予選を勝ち抜いてきた5人であったが、普段から凄まじいまでに勝負を繰り返しているせいであろうか、誰かが頭一つ抜け出ようとすると残りのメンバーが総出で立ち向かい、それを阻み続ける為なのか完全に膠着状態に陥り、勝者はもちろん敗者すら生まれることもなくひたすら同じゲームが繰り返され続けていた。
店主が意を決した表情で話しかける。
「えっとさ。時間もそろそろ差し迫ってきたし、今回は雛見沢分校部活のチーム優勝って事にしちゃってもみんな文句は言わないと思うんだけどな」
「えー、それじゃあたしらの中で決着付かないままじゃんさぁ、ぶーぶー」
「そうは言ってもさぁ、さっきから何回イーブンでリプレイ繰り返してると思ってるのさ、魅音ちゃん。」
「んと……今ので14回目?」
「さすがに見てる方もぐったりしてきちゃってるからさ。そろそろこの辺でお開きにした方が良いと思うんだ。それに、ギャラリーも充分楽しんでくれたと思うしね」
そう言われて、ギャラリーという名の敗者達を見渡してみる魅音。そこに居る者達は皆、確かに熱狂的に勝負を堪能し、満足感と疲労感を漂わせていた。
「しょうがないか。よし、みんな! この決着は次回のいつものメンバーの部活で付けるよ!」
高らかに宣言する部長、園崎魅音の言葉に仕方ないとでもいうように残りのメンバーもゲームを終了した。
片づけをしながら、口々に今日の決勝戦に付いて語り合う部活メンバーの元へ、店主が人数分の紙袋を持ってやってきた。
「決着付かなくて残念だけど、みんなも充分楽しませて貰ったからこれはいつものようにお礼。今日はちゃんと魅音ちゃんの分も用意してあるからね」
「え、ほんと? やった! おじさんにしては今日はずいぶん気前が良いじゃんさぁ」
「魅音さん、その言い方はどうかと思いましてよ」
「そうだよぉ。いつも魅ぃちゃんだけ何も貰えないとかじゃ無いんだから、おじさんがかわいそうだよぉ」
バツが悪そうに頬を人差し指で掻きながら魅音は店主に謝罪する。
「ごめん。確かにそうだね。あたしが貰えなかった日もあったってだけだもんね。おじさん、ごめんね。言い過ぎちゃった」
「あぁ別にかまわないよ。親戚だからって足りないときに魅音ちゃんに我慢させてるのはほんとだからね」
「っと、ところで中身は何かな? お値打ちもんだとうれしいんだけどねぇ、うひひひ」
それぞれが自分に渡された袋の中身を確認する。
魅音の袋には携帯用ボードゲームが、レナの袋には愛らしいデザインをされたぬいぐるみが、沙都子の袋には子供用手品セットが、梨花と羽入の袋には着せ替え人形のセットが入っているのであった。
各自の好みに合った品物が出てきた事で全員が満足げであった。そう、たった1人の少年である圭一を除いて。
「うわっ、期待してたのにアンティークドールだよ……そりゃ一番高額そうな品物はありがたいんだけど、俺の趣味からはほど遠いなぁ」
「ありゃ? ごめんごめん。圭一くんと魅音ちゃんの袋間違えちゃったみたいだな」
「えー、じゃこのゲームってあたしじゃなくて、圭ちゃん用な訳? 欲しい奴だったのになぁ」
失望を隠さない魅音に、両手を頭の後ろで組んだ圭一が話しかける。
「なんだよ、この人形よりゲームのが良いってのか?」
「そ、そういう訳じゃないけど……」
「わかったわかった! じゃこの人形は俺がいったん貰って、その上で改めて魅音にやるよ」
「え?」
とまどいと喜びの入り交じった表情を見せる、魅音。
「だからさ、これは俺から魅音へのプレゼントって事! 大事にしろよ!」
「う、うん……大切にする……け、けど良いの? 圭ちゃんには何も行かない事になっちゃうよ?」
「あー、いいよ。そのうち部活かなんかで、そのゲームで遊ぼうって話になるんだろ、どうせ。だったら問題ねぇよ。だいたい俺んとこ貰われてったらこの人形が哀れ過ぎるだろ? それに俺は魅音に貰って欲しいんだよ、魅音だから貰って欲しいの! それとも俺からのプレゼントなんかじゃ要らないかよ?」
にっこりと笑ってCOOLに決めたつもりの圭一が漏らした余計な一言で、魅音はつい、秘めた本心を口走ってしまう。
「ううん、欲しい! この人形だからっていうんじゃなくて、圭ちゃんがくれるプレゼントだから! ……って、あた、あたあた、あたし何言ってんのよっ!」
「バ、ババ、バカヤロ、何言ってんだ、お前! そもそもお前がそれを言って恥ずかしがると言われた俺の方が倍恥ずかしくなっちまうだろうが!」
その瞬間、店内に爆発音が響きそうなほど、二人は顔を真っ赤になってしまい、それを見て仲間達は口々に囃したて、喜びを露わにした。
「魅ぃが圭一に勢いで告白してるのですよ、にぱー☆」
「梨花、なんで今のが告白なんでございますの? でも、なにか魅音さんがおうれしそうだから、きっと良いことなんですのね!」
「はう~、男らしい圭一くんの行動で、ついに魅ぃちゃんが圭一くんに告白だよ、だよ! すごいよ、すごいよ!!」
「魅音、よかったのです! これはきっとオヤシロ様の御利益なのですよ! お礼はエンジェルモートのシューでいいと思うのです!」
一瞬、冷静さを取り戻した魅音の絶叫がこだました。
「み、みんなのバカ~~~~~~~~~っ!」
「それじゃぁ、みんな今日は本当にありがとうね!」
と店主の声に送られて店を出る頃には、風も出てきて、暑さも和らぐ夕刻を迎えようとしていた。
「はぁ~……なんであんな事、あたし急に口走っちゃったんだろ……」とはっきりと後悔がわかるほどに頭をバリバリと掻きむしる魅音に対して、圭一は「あんな事とか言うなよ。そりゃ恥ずかしかったけどさ……俺はあれすっげーうれしかったんだぞ」と聞こえるか聞こえないかくらいの小さなつぶやき混じりで返す。
セブンスマートで買い物があるという沙都子、梨花と羽入にレナが付き合うと言いだし、圭一と魅音は二人きりで雛見沢に帰る事になってしまっていた。
「ご、ごめん。変な事言っちゃったよね……」
「だから、ヘンじゃねぇって!」
「だってなんか圭ちゃん怒ってるみたいじゃん」
「怒ってねぇって!」
「怒ってるんじゃんさ、やっぱり」
「ちげーよ! あ……すまねぇ、言い方がキツいから怒ってるみたいに感じるよな……その、どっちかっていうと恥ずかしいっていうか、なんだその……う、うれしかったからさ、俺」
立ち止まった圭一は一つ深呼吸をしてから魅音の方へ向き直って精一杯の勇気を絞り出すように自分の気持ちを伝えようと言葉を紡ぎだした。
「あ、あのさ……お、俺は……前原圭一は園崎魅音の事が! その、なんて言うか、こう……わかんだろ? わかんねぇか、くそ! す、すきです! さーいっちまったぞちくしょー、さー殺せ! どーにでもしやがれってんだ!」
「け、圭ちゃん……う、うれしいよ。だ、だからあたしも言うね! あた、あたしは……園崎魅音は! その、あの、えっと……前原圭一が好きです! 大好きです!」
「お、おう! なんだ、その……り、りり、両想いって奴だな!」
「し、死にそうなくらい恥ずかしい!」
夕日に照らされているだけではない顔の赤さの二人。
長く尾を引く影はよりそい、初々しくも幼い、友達から恋人へと絆を深める二人を表すかのようであった。
「そうだ、この子にも名前付けてあげなきゃ……うーん、どんな名前が良いかなぁ……」
ウキウキとした気分で、魅音は圭一から貰った人形を軽く胸に抱いて名前を考え出す。
「圭ちゃんの圭に魅音の魅で圭魅ちゃん……ダ、ダ、ダメだ……言ってて恥ずかしくなって来ちゃった……なんかあたしと圭ちゃんの、その、子供みたいじゃないのさ、この名前! ダメ、恥ずかしすぎてみんなや詩音にバレた後が怖い! うーん……初めてのプレゼントだから初、二人の想いが実を結ぶように実、初実! うん、良い感じ。悪くない!」
ニコニコと抱いている人形に向かってその名を呼びながら声を掛ける。
「初実ちゃん、今日からはここがあなたの家だよ。ずっと一緒だからね」
「えっと……うん、ここいらへんに居て貰うようにしようかな」
魅音はサイドボード上の人形達を丁寧に移動させ、真ん中に初実の居場所を作った。
そしてもう一度初実を軽く抱きしめて、その頬にキスをしてから布団に入る。
「おやすみ、初実ちゃん。みんなもおやすみ~」
そのまま明かりを消し、瞼を閉じると魅音は心地よく眠りついたのであった。
「いや、イヤ、嫌、そんなのイヤッ! イヤだよぉ!!」
魅音は自分の叫ぶ声で目を覚ました。その頬には涙の跡が残り、全身がまるで雨に打たれたかのように寝汗でぐっしょりと濡れ、喉が渇き、心臓は早鐘のようになっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……また、同じ夢……なんで、なんでこんな夢ばっかり見ちゃうのよ……うぅ」
ここのところ、魅音は体調が万全とは言えなかった。
毎晩のように見る夢のせいで、睡眠不足気味である事は直接の原因ではあったが、その内容が実際は臆病で繊細な所のある魅音の神経をすり減らすものであった事が大きかった。
もう三日も続けて同じ夢を見ている。
夢の中で自分は口角をつり上げ、まるで三日月の如き口を開け、狂ったように笑っている。狂気の笑顔を貼り付けたまま、けたたましく笑い声を上げながら、愛しい圭一を、自ら親友と呼ぶレナを、誰よりも信頼する仲間達を、自らの半身である双子の詩音をその手に掛け、命を奪う夢であった。
自らの意志はその行動を否定し、やめようとする。しかしどう考えようともどう思おうともどう泣き叫ぼうとしても自由にならず、夢の中の自分は凶行を続けていく。
「あたしが、あたしがそんなことする訳無い! なのになんで毎晩毎晩……うぅ、助けてよぉ……圭ちゃん……あたし、どうしたらいいの?」
改めて涙を流し、声を上げて泣く魅音の脳裏に圭一の声が静かに響く。
『ほんとうに困って、苦しんで、どうにもならないって時にはな、相談するんだよ、仲間に!』
「圭ちゃん……そうだね……あたし一人で悩んでても何も変わらない。相談しなきゃ! みんなが集まればこのおかしな夢の原因だってわかるかもしれない! 明日、みんなに集まって貰おう。話を聞いて貰おう!」
そして魅音は初実を両手でそっと取り上げ、胸に抱いて祈るように呟く。
「お願い!初実ちゃんも私を助けて!」
日が昇り、気温が上昇し始める頃に魅音からの電話によって、圭一、レナ、沙都子、梨花、羽入、そして詩音が集まってくれた。それだけでもうれしくて涙を零すほど魅音は疲弊していた。あまりの魅音のやつれ具合を見て驚き心配する皆に、魅音は自分の見た夢を語り、原因がわからないこととそれによってぐっすり眠る事が出来無いこと、自分がそんな行動をする訳がないのにと思うことで精神的な不調を招いていることを告げた。
「夢にしちゃヤケにリアルだな。それに毎晩見るってのもちょっとヘンだぜ」
「そうだね。自分が自分じゃなくなる夢はレナも見ることあるけど、毎晩続けて、寸分違わずなんてないもの」
「それにそもそも、魅音さんがそんな事絶対にする訳ありませんでしてよ! そんな夢を見ること自体がただ事では無い気がいたしますわ!」
「そりゃお姉ぇが仮に私を憎んでどうこうって考えたとしても、お姉ぇですからね。絶対にそんな事はしないって思いますし。」
口々に感想を述べる4人。梨花と羽入のみが顔色を変えている事にレナが気が付いた。
「梨花ちゃん? 羽入ちゃん? どうしたのかな、かな? なんかもの凄く顔色が悪いよ?」
「みぃ……今の魅音の夢なのですが……」
「あう……ボクと梨花には覚えがあるのです」
驚く魅音達の中で真っ先に圭一が反応する。
「梨花ちゃん、羽入。それって、その……梨花ちゃん達が繰り返してきた100年の中にあった出来事なのか?」
「はいなのです。でもそれはそもそも、魅音がやったことではありませんのです」
「そして、それはボクの失敗でもあるのです」
それを聞いて詩音の表情がこわばる。
「それは……お姉ぇじゃなくて私がやった事……ですよね、梨花ちゃま」
「はいなのです。詩ぃが魅音になってそうした事は何度かありましたのです。」
「くっ……お姉ぇじゃなく私がその悪夢に苛まれるのならわかりますが、どうしてお姉ぇなんですか?!」
焦りを滲ませる詩音を圭一が制する。
「まてよ、詩音。そこで梨花ちゃん達に詰め寄ったって解決にはならねぇぜ! 梨花ちゃん達の言ってる事を総合的に判断すりゃぁ、その雛見沢での魅音は詩音のやってることを全部『詩音』として見てたんだろ? だったら、それが夢になってもおかしくは無い。けど毎晩毎晩ってのがわかんねぇんだよ。それに、なんだ……見始めた日ってのがこないだのゲーム大会の晩からだっていうんだったら……その……俺にも責任の一端が無いって訳でもないだろ?」
「け、圭ちゃんは関係ないよ! だって別に圭ちゃんがあの日に悪いことした訳じゃないんだから!」
「そりゃそうだけど、その日の晩からだって言われると気になるじゃねぇかよ!」
レナが魅音に問いかける。
「ねぇ、魅ぃちゃん。夢以外に何か変わったこととかなかったのかな? それとそれまでと魅ぃちゃんの行動で変わったことって何か無かったのかな?」
「夢以外……あたし寝相悪い方なんだけど、そのせいか、夢で飛び起きたりした時の振動とかかもしれないんだけど、初実ちゃん……あ、圭ちゃんがくれた人形だよ。この子が良く倒れてサイドボード上から落ちてるんだ」
「他には? 変わった事は?」
「ううん。あの晩、この子に名前を付けて、サイドボードに並べるようになったくらい」
メンバー全員で意見を出し合い、首を捻り、唸り声を上げても理由ははっきりせず、解決策は見つからなかった。
そしてその時、圭一が口を開いた。
「なぁ、梨花ちゃん。それに羽入。言い出しにくい事なんだが……診療所に入院してる鷹野さんに相談するのはイヤか?」
「み? 僕は鷹野をあの日に許しましたのですよ。それは羽入も同じはずなのです。」
「圭一、ボクはあの日まで鷹野が大嫌いでした。今だって大好きではありません。けれどボクは鷹野をもう許していますし、出来るならば好きになりたいと考えていますのです。ボクの望みは誰一人欠ける事無く、この雛見沢で平凡であっても幸せな日々をみんなで過ごす事なのですから……」
詩音が訝しがって圭一に質問をする。
「でも、圭ちゃん。なんで鷹野さんなんですか? この事はあの人にはもう関係のない事じゃないかと思うんですけど?」
「いや、鷹野さんてさ、その医学的な事以外に趣味でオカルトチックな事とか超常現象とか地域伝承とか調べてて詳しいだろ? 何か今回の件で解決のためのヒントを知ってるんじゃないかと思ってさ」
「それは確かにそうでございますが、鷹野さんはまだ治療中でございますし、わたくし達の相談に乗って頂けるような状態じゃ無いんではございませんの?」
6月の決戦後、『東京』の下した結論は「雛見沢症候群の高レベル発症を考慮し、快癒後に改めて本人の証言も併せて調査部の報告によって処分を決定する。ただし、その間は鷹野三等陸佐の持つ全ての権限を凍結し、雛見沢にある入江機関の研究医療施設内にて加療すること。また、許可のない面会・外出・施設内自由行動を禁ずる」というものであった。
調査責任者である調査部所属の富竹二等陸尉による奔走、表面的ではあるが入江機関責任者である、入江京介二等陸佐による鷹野三等陸佐の持つ資料と知識の重要性の訴え、表だって事件を処理できない事を利用したい『東京』と警視庁公安部第七資料室の高度な政治的判断による司法取引の結果である。
「鷹野さんなら監督と富竹さんの許可が貰えさえすれば、会う事は出来ます。でも余り負担になるような事をさせてはいけないでしょうけど」
「じゃぁ、まずは監督と富竹さんのOK貰う事からだな」
「みんな……ありがとう……」
圭一を筆頭に全員は入江診療所に向かった。
月次報告もあり、今日は富竹も診療所に居る事が詩音によって情報として持たされていた事も大きかった。
「そうですか……私としては雲を掴むような話で、鷹野さんの負担になってはとも思いますが、魅音さんの体調も心配ですしね。わかりました。鷹野さんの負担になりそうなら富竹さんが止めてくださるでしょう。よろしくお願いします、富竹さん」
「わかりました。僕はみんなに力を貸す事で鷹野さんが少しでも心が軽くなるのであればと思うしね。僕が立ち会います」
「鷹野さん、少し良いかい? 魅音ちゃん達が鷹野さんに相談に乗って欲しいそうなんだけど」
「そう……私なんかで良いのかしら……でも、まだ私は梨花ちゃん達にはきちんと謝ってなかったわね……」
「相談に来たって事はあの子達はみんな、誰一人もキミを恨んでたりしないという事だよ。病気のせいだった事もちゃんとわかってくれてるんだからね。でも、気分が優れないんだったら帰ってもらうけど?」
「そう……あの子達の言う罰ゲームみたいなものかしら……いいわ、会います」
富竹は圭一達を鷹野の病室に招き入れた。
「みんな……まだ謝ってなかったわね。ほんとうにごめんなさい。特に梨花ちゃんと羽入ちゃんにはどれだけ謝っても謝り足りないくらいだけれど」
「鷹野、あの時に僕は言ったのですよ。『敗者なんか要らない』と。だから今日は鷹野の力で魅ぃを助けてあげてほしいのです」
「ボクもあの時言ったのです。『鷹野、あなたを許しましょう』と。今、魅ぃの力になれそうなのは鷹野なのです。力になって上げて下さいなのです」
魅音は圭一に促され、状況を最初から説明した。そしてその悪夢の内容は実は魅音ではなく詩音の存在しない記憶であることを梨花が告げた。目を瞑り考え込む鷹野の答えを、その場に居る全員が固唾を飲んで待った。
「ものすごく、興味深い事例ね」
「何かわかりそうかい、鷹野さん?」
「まず……魅音ちゃんに悪夢を見せている原因がなんなのかからね。おそらく魅音ちゃんの見ている悪夢は何らかの形で思念が流れ込んできているんだと思うわ。夢を見るという行為自体、無自覚に人間は毎晩行っている行為だもの。けれど時々深層の記憶や、考えている事が歪んだ形で現れる、それが悪夢。けれど、まれに本人の物ではない思念が流れ込んでくる事はあるのよ」
「へぇ~……」
「それがもし、詩音ちゃんのあり得ない記憶だったとして、双子である魅音ちゃんがそれを悪夢として見てしまう事はあると思うの。けれどそれは結果であって原因じゃないわね。むしろ何か違う事に原因がある気がするわ……」
富竹に頼み、サイドボードから一冊の資料を取って貰うと、それを開き、鷹野はとあるページを開き指し示す。
「この事例が近いかしら。魅音ちゃんはお部屋にそれまで人形をたくさん飾って可愛がってきたのよね?」
「え? は、はい……その似合わないかもですけど、してました……」
「古来より、愛情を持って接すると人形には想いが宿ると言うわ。そしてそれに足る愛情を魅音ちゃんは人形達に注いできたのではないのかしら?」
ふと思った疑問を圭一は口にする。
「でもだったら、想いが宿るほどの人形がなんで魅音を苦しめるんですか? おかしいじゃないか」
「そうだよ、大切にされてきた人形が魅ぃちゃんを苦しめるのはおかしいかな、かな?」
「あなた達にはまだ少し解り難いかもしれないわね……私にはとても良く解るのだけれど」
「どういうことでございますの?」
「嫉妬よ」
鷹野は辿り着いた推論を語り始める。
「想いが宿って心を持つほどに魅音ちゃんに大切にされてきたんですもの。新しくやってきた、いわば”よそ者”が自分達よりも大事にされ、可愛がられ、愛されると知ってしまったら嫉妬してもおかしくはないでしょう?」
「それじゃ、やっぱり俺があげたあの人形がきっかけで?!」
「そう…ね。こうなったきっかけはその新しい子でしょうね。けれどそれは理由であって原因じゃ無いわ」
「じゃ、原因は?」
「はっきりしないわ、ごめんなさい。なぜ悪夢を見るのかとなぜ新しい人形が来た日から始まったのかは、これで説明できるけれど、原因とどうしたら解決するかはまだわからないの」
全員に軽い落胆の色が浮かぶ。
「で、でもさ。鷹野さんのおかげで少しは進展したんじゃないかな、みんなも。あっはっはっは……はぁ……」
「魅音ちゃんの持ってる人形達に詩音ちゃんに縁がある物は無いのかしら? もしあれば、魅音ちゃんが詩音ちゃんの記憶で夢を見てしまう事は説明できるのだけど……」
「あ!……そうだ! お姉ぇ、確か私がルチーアへ行くときに持って行けないからって、あげた子が!」
「まってよ!レナも魅ぃちゃんに一人あげた事あるよね、よね? じゃ魅ぃちゃんが私の分の悪夢を見ちゃうこともあるんですか、鷹野さん?!」
表情を曇らせるレナに向かって鷹野は優しく語る。
「もし、それが例えばレナちゃんが何年も愛情を注いで来た人形だったなら、いずれは魅音ちゃんの悪夢を呼び込むきっかけにはなってしまうかもしれないわ。けれど、詩音ちゃんと魅音ちゃんは一卵性の双子だからレナちゃんのケースより深く結びついているからだと思うのよ」
「では鷹野、それらの人形を処分したりすれば魅音の悪夢は消えるかもなのですね?」
「それはむしろ、逆効果だわ」
「じゃぁ、俺があげた奴を処分するべきなのかな?」
「それで収まるとも思えないわね」
どうすべきかみんなが悩みはじめてしまった。
「何か、直接の原因が絶対にあるはずだと思うのだけれど……魅音ちゃんは見落としてたり忘れてたりすること、ほんとうにもう無いのかしら?」
「うーん……」
「いずれにしても魅音ちゃん自身に原因があるのか、その部屋に居る人形達に原因があるのかを切り分ける必要はあると思うのよ」
「それにしても、”よそ者”か……なんか、この前までの沙都子への村八分や、引っ越してきたばっかりの頃の我が家への視線を思い出すぜ」
圭一の漏らした一言にみんながハッとなる。そして羽入が何かに気が付いたような表情を見せてつぶやく。
「”よそ者”、”村八分”……確かにそうなのです。」
「みんな、聞いて欲しいのです。もし、鷹野の言うように前から魅音の持っていた人形達が新しくやってきた人形を除け者にしているのだとしたら、解決できるかもしれないのです!」
「この雛見沢にはみんなも知っているように、鬼ヶ淵と呼ばれた頃から、外部と交わる事を拒否してきた風習があるのです。そしてそれは北条家への村八分という形になって沙都子や悟史を苦しめてきたのです。けれどボク達はそれを乗り越えたでは無いのですか?圭一が、魅音が、詩音が、レナが、梨花が、そして沙都子自身がそれらを吹き飛ばしてしまったのではありませんか? 人の想い、心が人形に宿るのなら、もう一度、ボク達が一丸となって乗り越えられるはずなのです! より強く願い想えば、それは人形達にも伝わるのではないのですか?」
圭一の方を向いて、片目を瞑って、ほほえみながら詩音が語りかける。
「そう言う事でしたら、圭ちゃんの出番ですね」
「はぁ? 俺?」
「そうですよ。裏山の一件を鬼婆に説明する時に圭ちゃんの口先がどれだけ活躍したと思ってるんですか? 圭ちゃんのアレが無かったら沙都子の大活躍は鬼婆にちゃんと伝わってませんよ? 圭ちゃんの語る沙都子の活躍が、沙都子がどれだけこの雛見沢やみんなを守る為に頑張ったのかを鬼婆に思い知らせたからこそ、正式な鬼婆の村八分終結宣言になったんですよ」
そう……あの日、裏山や入江診療所で起こった出来事の全てを説明する為に園崎家に全員が終結したその時、圭一は沙都子がどれほどみんなの為、雛見沢の為に頑張ったのかを得意の口先で熱く語り、それは園崎家頭首お魎の心をも動かし、公式の場においての「死んだもんへの恨み辛みを生きとる人間、しかもあげな幼い沙都子ちゃんにぶつけとるダホどもは誰や? いつ、そうせぇゆうたんじゃ?」へと繋がり、以来北条家への村八分は正式に終結したのであった。
「そうだね、あの時の圭ちゃん、かっこよかったよねぇ、えへへへ」
「お姉ぇは何を、思い出して気持ちの悪い笑いしてんですか、誰の為にこうやってみんなが集まって知恵出し合ってると思ってるんですっ?!」
「ご、ごめん……」
「だからって、俺が延々と人形に魅音は悪くないだの苦しんでるだの、初実だっけか、その人形を仲間として受け入れろだの演説するってのか?」
「魅ぃちゃんの為なんだよ、だよ?」
「その程度、出来なくて何が男でございますの、圭一さん!」
「愛しい魅ぃの為に一肌脱ぎやがれ、なのですよ、にぱー★」
「ということで、今日は全員で本家にお泊まり決定ですよー。あ、圭ちゃんはお姉の部屋に一緒でお願いしますね。」
病室内に爆発音が二つばかり鳴り響いた気がすると、真っ赤になった圭一と魅音を見ながら富竹は思い、さっきまであんなに沈み込んでいたのにこの子達はやっぱり明るいわねと鷹野は微笑んだ。
園崎本家、魅音の自室。
「詩音とレナには何度も見せてるけど、圭ちゃんとか他のみんなには初めてだから恥ずかしいよ」
「うぉ! なんかレナと詩音に聞いたよりも乙女チック! って、少女漫画の世界?!」
その刹那、
「ぷべらっ」
「そういう事言っちゃいけないんじゃないかな、かな?!」
れなぱんが炸裂し、圭一は部屋の隅まで吹っ飛ばされていた。
「デリカシーの無い圭一さんは無視して、今晩、どうするかを考えませんと」
「三日も続くと眠るのが怖いんだよ……」
「大丈夫なのです。今夜はみんなも居ますですよ、魅ぃ」
「今夜はお姉ぇは私たちと客間で眠って、この部屋には圭ちゃんに泊まって貰いましょう」
「まて、おい! なんでいきなりそんな話になってんだよ!」
「あ、圭一が復活したのです。さすがなのです。」
詩音が作戦を話し出す。
「鷹野さんでも本当の原因はわかりませんでした。だから実証実験ということですよ。原因の切り分けが必要だって鷹野さんも言ってたじゃないですか。この部屋とお姉ぇをそれぞれ別に実証する必要があると思います。お姉がこの部屋で眠らなかったらどうなるか? この部屋にお姉ぇ以外の人間、今回は圭ちゃんですけど、圭ちゃんが泊まって眠ったらどうなるか? もし圭ちゃんまで悪夢を見るのなら、原因はこの部屋に本当にあるという事です。それからこの部屋で眠るお姉ぇが部屋を変えて、私達と眠って悪夢を見てうなされるようならお姉ぇ自身に何かあるという事になります。どちらでも無かったらこの部屋とお姉ぇの組み合わせでだけ発生するという事です。どちらも起こることが一番解決から遠ざかってしまうので困りますけどね。」
「で、もし俺が悪夢見た場合はどうすんだよ?」
「圭ちゃんの精神力ならねじ伏せられると信じてますよ」
詩音の意見に誰もが頷いて同意を示す。
「ごめんね、圭ちゃんは何も悪くないのに……」
「きっかけ作ったのが新しい人形だってんなら、俺も片棒担いだようなもんだからな。よし、悪夢とやらと勝負してやるぜ!」
魅音の自室に居る圭一は一人、人形達に向かって語る。
「お前等、ほんとにそんな風に新しく来た、こいつを除け者にしようとしてんのか? どいつもこいつもこんな可愛い顔してんのになぁ」
「だいたいだな、魅音と付き合いが長いのはお前等だろ? それで新しいのが来たからってお前等の事を粗末に扱うような魅音だと思ってんのかよ? がっかりだぜ! お前等は魅音の何を毎日毎晩見てきたってんだよ? 魅音がそんな事する訳無いだろうが!」
圭一の人形達への一人語りは続く。
「あいつは誰よりも優しくて、誰よりも寂しがり屋で、誰よりも強がりだ! お前等がずっとあいつを支えて慰めてきたんだろ? それがなんだよ! なんであいつを苦しめるんだよ! なんであいつを悲しませるんだよ!」
「こいつは確かに今まで居なかった”よそ者”かもしんねぇよ。けどさ、こいつは俺の代わりにお前等と一緒になって魅音を慰めて一緒に居る為にここにきてんだよ! こいつに文句があるんなら魅音やこいつじゃなくて俺に言え! お前等が文句を言ったり恨んだりする相手はこいつでもなきゃ、魅音でも無い、この俺だろう? 文句があるんなら俺に言いやがれ! この前原圭一に言え!」
「……と、まぁ一応一席ぶってみたが……返事が返ってくる訳も無いよなぁ」
さすがに魅音の布団をそのまま使える訳もなく、圭一は床に寝ころぶ。
「さー、悪夢でもなんでもきやがれってんだ! とは言ってもな……いや、実際魅音の部屋だと思うと寝付けん」
もぞもぞと終わりがまるで来ないかのごとく圭一は寝返りを繰り返す。
真夜中になろうとする頃、うつらうつらと浅い眠りに入っていた圭一が物音に気が付いた。
「なんだ? 物音がするな……」
そして何者かの視線を感じたような気がした圭一は起きあがって電気を付けた。
圭一の眠る場所を中心に周辺を人形達がずらっと取り囲むように立ち、圭一を見つめていたのだ。
圭一は思わず叫んでしまった。
「なんだよ、なんなんだよ?! これ!」
圭一のあげた大声に魅音をはじめとするみんなは一斉に魅音の部屋へとやってきて、入り口で凍り付いた。
「な、なななな何これ~?!」
「俺だって目が覚めたらこうなってたんだからわかんねーよ!」
「ケガとかそういうのは無いのかな、かな?」
顎に指をあて、考え込む詩音と圭一を心配する魅音とレナ。年少組は状況を目のあたりにして3人でくっついて一人固まりになっている。
魅音に気が付いた圭一は真っ先に魅音を案じて声を掛けた。
「そういや、魅音の方はどうだったんだよ? 大丈夫だったのか?」
「う、うん。今夜はまだうなされたり夢を見たりしてなかったよ」
何事かを思いついた詩音が口を開く。
「お姉ぇの状態とこの部屋の現状を考えると、原因はやはりこの部屋の人形達にありそうですね。圭ちゃんは悪夢見ましたか?」
「いや、夢見るほど深く眠って無いと思うぜ。なんか物音がするからってだけで目が覚めちまったくらいだしな。で、明かりを付けて周囲を見渡したらこうなってやがったんで思わず声出ちまった、たははは」
「気持ち悪いですわ。これ、圭一さんのいたずらとかではありませんのよね?」
「あのなぁ、いくら俺でもこんな時にそんな事はしねぇっての……いやー、でも気が付いた時にはマジでビビった」
時刻は午前1時半。
「で、どうする? このままもう一回俺はここで寝てみりゃ良いのか?」
「圭ちゃんがこの体制で眠れるっていうなら、お願いしたいところですね」
「やっぱしかよ……人形……どかしちゃダメだよな?」
「いえ、人形は元の位置に戻しておきましょう。皆さんも手伝ってください。お姉ぇはいつもの配置を皆さんに教えて!」
10分ほどで床にいた人形達はサイドボードの上に戻された。
「そういや、初実ちゃんだけ動いてなかったんだね」
「お、そういやそうだな。さすが俺がプレゼントした人形だけに聞き分けが良いぜ!」
「それは私やレナさんへのイヤミですか、圭ちゃん?」
「……すいません……」
詩音が全員に声を掛ける。
「それじゃ、皆さん。部屋に戻りましょう。圭ちゃん、もう一度同じ場所で眠ってくださいね」
「おう。眠れりゃ眠るよ」
詩音たちは全員、客間へ戻り、圭一は意を決してもう一度、床に着く。
翌朝、まだ眠っている圭一に部屋の外から魅音が声を掛けた。
「圭ちゃん、圭ちゃん朝だよ。大丈夫? ねぇってば、圭ちゃん!」
「お、おう。生きてるぞー、まだ。ふぁ~、なんか寝たのに寝た気がまったくしねぇよ……」
朝食を全員で取りながら、詩音を中心に昨夜の状況を整理していく。
「で、どうでした、圭ちゃん?」
「あぁ、まぁ悪夢とまでは言わないが、夢らしい物は見たぜ」
「どんな夢を見たのですか? 怖い怖い夢ではなかったのですか?」
みんなは圭一が夢の内容を語るのを待っているようだった。
「なんつーか……うん、あんまり思い出したくない物を見せられちまったよ……東京んときの事をな。考えてみりゃ、この部屋から俺に出て行けって意味だったのかもしれないよ。魅音の方はどうだったんだよ?」
「お姉ぇは寝ぼけて私に抱きついてよだれ垂らして『えへへ、圭ちゃぁん』とか言ってたから圭ちゃんとラブラブに過ごす夢見てたみたいですよ。ほんとにもう、パジャマが汚れちゃいましたよ」
「だだだだ、だからそれ言っちゃいやだって言ったじゃないの~~~~~っ! もー、詩音きらぁ~いっ!!」
「でも、魅ぃちゃんは久しぶりにちゃんと眠れたみたいで良かったんだよ、だよ」
場はそれで一挙にいつもの空気に戻ったようだった。
「で、どうするのですか、詩音」
「夕べの状況をもう一度、鷹野さんに伝えてみましょう」
「では、朝食後に少し休んでから診療所に皆さんで参りましょう」
鷹野の病室にて、詩音と圭一が昨晩の出来事を告げ、鷹野の見解が始まるのを待つ。
「人形が一度は勝手に動いて前原くんを取り囲んだ。そして、拒絶の意味合いの夢をみたという事ね。魅音ちゃんは悪夢から解放されたみたいなのね。そう……」
「鷹野さん、何か解りそうかい?」
「人形に原因がある事ははっきりしたし、前原くんの見た夢を考えると単に悪夢を見せてるのではなく、何かを伝えようとしてる気がするわね。」
「人形が何かを伝えようとしている……ですか……それをどうやって聞き取るかが問題になりますね」
誰もが明快な答えを見いだせずに居た中、意を決して魅音が口を開く。
「やっぱりさ……元はあたしなんだからあたしが聞かないとダメ……だよね?」
「けど、それでまた苦しむのでは意味が無いのですよ、魅音」
「そうね。きっとほんとうの答えは魅音ちゃんにしか得られないと思うわ。でもその為に体調を崩すのであれば、勧められないわね。こんな状態でも一応私も医者なんだから」
しかし、魅音の目に宿った決意の光に揺るぎは無い。
「ううん。やっぱりあたしがきちんと向かい合わなきゃいけなかったんだと思う。圭ちゃんはさらっと流して言ってたけど、圭ちゃんにとって見てうれしい夢なんかじゃなかったはず。でも、圭ちゃんは夢になんか負けなかった。あたしは向かい合いきれなくて、逃げてるから悪夢になってしまったのかもしれないし」
「そいつは良いけど、無理すんなよ」
「大丈夫だってぇ! いざとなればみんなが助けに来てくれるんだしさ。夢に負けてちゃ、園崎魅音の名が廃るってなもんさね!」
空元気にも見える魅音の決意をそれでも覆す事は出来ず、今夜も園崎本家に部活メンバー+詩音は泊まり込む事になった。
「うぅ、カッコつけて啖呵切ったまでは良かったけど、今更ながらビビってきちゃったよ……」
「けどさ、あんた達もさぁ……あたしに言いたい事あるんならもっと別の形にしてよ、ほんと」
サイドボードの人形達に魅音は語りかける。
「そりゃさ、初実ちゃんがウチに来てくれて、あたしは喜んだよ。だって圭ちゃんがプレゼントしてくれたんだよ? 圭ちゃんときちんと想いが通じ合った記念なんだもん。それともあんた達は圭ちゃんが嫌いかい? だったらあたしは凄く悲しいなぁ」
サイドボードの人形達に向かい、きちんと正座して背筋を伸ばし、魅音なりに心を込めて丁寧に語り続ける。
「確かにさ、圭ちゃんはこの雛見沢にとっちゃ後から入ってきた人間かもしれない。でもさ、もうあたしにとって大事な人だし、この村にとってだってちゃんとした住人なんだよ。あたし達といっしょにそれこそ命の危険も顧みないで裏山で一緒に戦ってくれたんだよ?」
「村のみんなだって圭ちゃんを受け入れてる。分校にだってあたしにだって圭ちゃんはもう無くてはならない存在なんだよ。村のみんなとあんた達が同じなら、この子、初実ちゃんは圭ちゃんになる存在なんだよ。だから受け入れてちゃんと仲間にして上げて欲しいんだよ。あたしはこの子もあんた達も同じように大事だし大切なんだよ。仲良くして欲しいんだ。お願い」
そして布団に潜り込むとまるで何かの呪文を唱えるように繰り返しつぶやき、目を閉じる。
「お願い。わかって……お願い」
魅音の意識が遠のきかけたその時、部屋の中に声が聞こえたような気がした。
人形達が動き出したのかと思った魅音は耳を澄まし、息を殺し、様子をうかがう。
「コイツハワタシタチノジャマヲスル。オイダサナキャワタシタチガオイダサレル。ワタシハミオンノイチバンニナルノ。デモミオンノイチバンケイイチニナッタ。ニバンハコイツニナッタ。ワタシハイチバンニナレナイ。ワタシガコイツヲオイダストミオンガカナシム。ワタシガミオンノジャマモノニナル。ダカラワタシモオイダサナキャ」
「な、なに? 何? 人形が喋ってるの?!」
魅音が思わず上げた大声にみんなが魅音の部屋へやってくる。
そしてみんなが見た物は無機質で出来た人形がまるで子供のようにゆっくりと歩き、部屋の出口へ向かってくる姿だった
縁側までたどり着いた人形はそのまま落ちて、人のような悲鳴を上げた。
「ギャァー」
あわてて落ちたあたりに明かりを照らすと庭の三和土の飛び石に叩きつけられ、壊れた人形がうごめくようにして繰り返し繰り返し、同じ言葉をつぶやいていた。
「オイダサナキャ。ジャマモノハオイダサナキャ。オイダサナキャ。ジャマモノハ……」
翌日、またしても鷹野の病室に全員が集合していた。
「そう……そんな事が……」
「なんか、まだ本当にあったことなのか不思議なくらいで……落ちて壊れた人形も拾い上げたらもう動かないし喋らないしね」
「付喪神だったのかもしれないわね。長い間、魅音ちゃんが一心に愛情を注いできたんだもの」
鷹野が語る付喪神の話を聞いて魅音が壊れた人形について語り出す。
「あの人形はさ……多分、私の記憶に残ってる一番古い人形。ずっと昔、本家に住むようになる前だね。興宮の家に住んでた頃だよ、買って貰ったのは。あの頃、あたしは家に一人で留守番させられる事が多くてさ。お母さんが詩音とお揃いで買ってくれたこの人形だけがいつもあたしと一緒に居てくれたっけ……」
「あはははは……わたしはお姉ぇと違ってもうだいぶ前にその時の人形、壊しちゃいましたから、ね……」
「でも、結局何が言いたかったのかよくわかんなかったなぁ……あの子が初実ちゃんを追い出したがってたのはわかったけど、他の人形も同じだったのかな? だったらあたしは凄く寂しいし、悲しいなぁ……」
目を伏せ、寂しげな表情を作る魅音に梨花が声を掛けた。
「魅ぃ、全ての人形がそう思って行動したのかどうかはわからないのです。一体の強い強い想いに引きずられてという事もあるのですよ」
鷹野が続く。
「そうね。梨花ちゃんの言うとおりかもしれないわね。沙都子ちゃんの件でも似たようなものだし、オヤシロ様の祟りと呼ばれたものも言ってみればこの雛見沢の土壌の上に私の執念や怨念のような強い意志が合わさって連続して起こったとも言えるのだし」
「けど、これで万事解決ってなるんならいいじゃねぇか。そりゃ壊れた人形はかわいそうだけどさ……それ、修理できんのか?」
「うん、いちおう善郎おじさんが修理できないか問い合わせてみてくれるって」
「返ってきたら同じように大事にしてやんなきゃな」
「そうだね」
その後、魅音が悪夢に悩まされる事も無くなり、魅音の部屋にも特におかしな事が起きる事も無く夏は過ぎていくのであった。
問題の人形はその後、善郎の手を経て無事に修理され魅音の所へ戻ってきて居た。
「うーん、今日もよく寝た~! さ~て、今日は分校で久々の部活大会だし頑張らなきゃ! こうやって遊べるのもこの夏休みだけだもんねぇ……うひひ、さて今日は圭ちゃんにどんな罰ゲームやらせようかなぁ」
明るく楽しげに部活とその後の罰ゲームを思ってニヤつきながら魅音は出かけていく。
全てが解決した。
と誰もがそう思っていた。
誰もいなくなった魅音の部屋で何者かのつぶやく声が静かにそして深く響いていた。
「オイダサナキャ。ジャマモノハオイダサナキャ。ココハソウイウトコロ。ジャマヲスルモノハスベテオイダサナキャ。コンドハオイダスダケデハダメ。コワサナキャ。コワサナキャ。コワサナキャ。コワサナキャ……」
-了-
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1: 雁頭 URL 2008年10月08日(水) 午後5時28分
こちらではお初なのです、にぱ~☆ では、とっとと感想にいくのですよ。
何時もの様に展開されていく、ニヤニヤ♪ ドタバタ☆ の日常の中静かにに忍び寄る影。
……怖いと感じなかったボクは、多分心のカケラを喪ってて、駄目駄目なのです(笑)。
でも、後半は色々と考えさせてくれる逸品だったですよ、にぱ~☆
お魅事なのです☆ 結構な御手前でした♪
拙いコメントではありますですが、無言拍手と共に、打たせて貰うのですよ。
……って、二票を投じた事になるのかなぁ(笑)? …あるぇ?!
2: 伏龍鳳雛 URL 2008年10月12日(日) 午後3時32分
>雁頭さん
ニヤニヤとドタバタはちょっととってつけた感が拭えないので自分自身では余り出来が良かったと言い難いというかもそっとマシな構成せいや、自分という感じが(笑)
怖いかどうかはまぁ個人の嗜好ってところはあるんですが……
とりあえず読み終わっての居心地の悪さがあれば書いた俺の勝ち(マテ
ホラーだから流血や死体が出なきゃってのが個人的に嫌いなのでこんなんになりました。(笑)
読後感に「居心地が悪い」ってのもホラーの要素だと思うんですよ、うん。