▼ 2009/02/16(月) 雛見沢三冠王攻略戦 その2 冬の陣パート3 ~バレンタイン血戦~
久しぶりの更新になってしまいました(;^_^A)
雛見沢三冠王攻略戦、冬の陣パート3~バレンタイン血戦をお送りします。
今回、なんだかんだと表稼業が忙しかったりして出来がイマイチな感とかやっつけ感満載ですが(苦笑)
それではどうぞ!
昭和59年2月初旬、ここ雛見沢分校の教室内は色めき立っていた。
まもなく、14日がやってくる。
世の中では俗に「バレンタインデー」と呼ばれる日が近付いていたからである。
僅か20数名の生徒しか居ない雛見沢分校でもバレンタインデーの話題で持ちきりであった。
約1名を除いて……であるが。
小学校低学年の子から最年長の中学3年、受験まで日にちの無い委員長・園崎魅音に至るまで少女達は皆、渡す相手や渡す品物に心躍らせ、少年達は意中の子から貰えるのかどうかで心を躍らせていた。
繰り返すようだが、約1名を除いて……である。
「前原さん、前原さん!」
「おう、どうした大樹に傑?」
富田大樹と岡村傑の二人は雛見沢分校の最年長の少年、前原圭一に声を掛けた。
「もうすぐですね、前原さん!」
「ん? 何がだ? 魅音の受験か?」
「やだなぁ、前原さん。バレンタインデーですよ、バレンタインデー」
誰言うとなくヘタレ・鈍感・ノンデリカシーの無敵の三冠王と呼ばれる男である。
そう、バレンタインデーが間近であることにも、誰から貰えるのかにもまったく反応していなかった唯一の男である。
昨年まで勉強一色で過ごしていた彼に取ってはバレンタインデーなどというイベントは無縁であった事も一因ではあろう。
「まぁ俺にはあんまし関係無いからなぁ」
「そうですかぁ? みんな貰えるかどうかとか誰から貰えるかとか気にしてるのに」
「たかがチョコやクッキーの事で騒ぎすぎじゃないか?」
バレンタインデーの重要さを説く富田、岡村と好対照なまでに拘らない圭一の会話を余所に当の圭一を見つめる視線が複数あった。
「で……みんなは当然、圭ちゃんに本命だよね?」
「もちろんなんだよ、だよ」
「出来合いのチョコを溶かしただけですけれど、精一杯の物をお渡しいたしますわ」
「僕も頑張るのですよ!」
「あうあう、甘ぁ~いチョコで圭一と甘ぁ~い時間を共に過ごすのです!」
固い決意を確認しあういつもの面々である。
クラス委員長にして部長、園崎魅音。
クラスの母と呼ばれる、竜宮レナ。
トラップマスター、北条沙都子。
古手家頭首にしてオヤシロ様の生まれ変わりと言われる、古手梨花。
梨花の親戚にしてミステリアスな自称オヤシロ様、羽入。
いずれも圭一に心を寄せるものの、肝心の圭一は三冠王の異名にふさわしい、そのまんまな無神経でがさつ極まりない言動を繰り返し、まったく想いは届くことが無く、彼女たちは全員、夜毎に枕をその涙で濡らしているという。
クリスマス、年末、年始と重要なイベントすら彼女たちのけなげな行動は全く実を結ぶことが無かったのである。
「魅ぃちゃんはどうするの?」
「う~ん、そこなんだよね。受験勉強の合間だからあんまり凝った物作ってられないからねぇ……沙都子と同じで買ってきたのを溶かして型に流し込んで終わりってとこだね」
「ハンデ無しの勝負でございますわね!」
「そろそろ決着付けたいのですよ、みぃ」
「全員揃っての大勝負なのです!」
元々、圭一は羽入ほどではないが甘い物は好きであることから、チョコレートという武器が有効ではないかと5人とも力が入っていたのである。
レナはバレンタインデーに備えて、複数の味のバリエーションを持たせたチョコレートを購入し、組合せを熱心に繰り返して試している。
ようやく昨晩、自身が納得のいくレシピに到達していた。
魅音は双子の妹、詩音と共に、叔父であるエンジェルモートの経営者、義郎を通じて業務用のチョコレートを入手。
また詩音が手に入れたファンシーな型とラッピンググッズと用意万端。
沙都子は魅音と同じく、姉代わりの詩音が選んでくれた可愛らしい型とラッピンググッズで勝負である。
梨花は古手神社の氏子でもある雛見沢の老人達の分も含めて大量のチョコを用意していた。
老人達に用意した物は全て、圭一に渡す本命製作過程の試行錯誤の産物ではあるが。
羽入はレナにも負けない料理の腕と甘いものには目がない己の舌が導き出したチョコレートの配合で勝負。
決戦の日は刻一刻と近づいていた。
「じゃぁ渡すのは各自のタイミングで! 許されるチャンスは圭ちゃんが校内に居る間だよ! いいね?」
「「「「ラジャーっ!」」」」
いよいよ、バレンタイン当日。
いつものようにレナが圭一を起こしに行き、魅音と水車小屋で合流。
3人での登校もいつも通りである。
圭一に聞こえないように小声でレナが魅音に声を掛ける。
「魅ぃちゃん、無事に出来た?」
「うん、なんとかね……昨日も普通に圭ちゃん、時間いっぱいまで厳しく受験対策してくれちゃってさ! あたしゃもうヘロヘロになりそうだよ……」
「あははは……まさかチョコ作る為に時間欲しいから早めに終わってとは言えないもんね」
3人が登校し下駄箱に辿り着いたとき、事件は起こった。
「うわっ!」
「どどどしたの、圭ちゃん! 大きな声上げて?!」
「なにかな、かな?」
下駄箱を開けた圭一を飛び出してきた色とりどりの箱が襲ったのであった。
「こ、これは……?!」
「はう~……チョコじゃないかな、かな?」
「そうだね。チョコレートだね」
微妙に殺気を漂わせてまるで棒読みのような反応をレナと魅音がする。
「はぁ?! 訳わかんねぇよ? なんで俺の下駄箱にチョコが詰まってんだ?」
「ほ、ほら! 今日はバレンタインデーなんだよ、だよ!! だから誰か……達が圭一くんにチョコくれたんじゃないかな、かな?」
「け、圭ちゃんも意外とモテるんだねぇ……小さい子に! あっひゃっひゃっ……はぁっ~……」
情況を把握したレナと魅音をよそに、イマイチわかってなさげな圭一は足下に散らばった箱を拾い集めると鞄にとりあえず仕舞って教室へ向かって歩き出した。
「くっ、甘かったよレナ! 予想可能だったってのに完全に出し抜かれてるよ他の子達に!!」
「う、うん、そうだね……まさかあんなにだなんて」
「あれ、分校の女子の半分くらいの子の分だったよ。こうなると残りの子達も圭ちゃんに渡すとみた方がいいねぇ」
「そうだね。はぅ~……困ったんだよ、だよ? このまま普通に渡してもレナ達のが埋もれちゃうよ」
苦虫を噛み潰したような表情を隠しつつ、圭一の後を追って教室に向かう二人であった。
教室では入り口で圭一が戸惑っていた。
「あ、あの……これ前原さんに……」
「けーいちおにーちゃん、いつもありがとう! これあげるね」
右手の人差し指で頬をポリポリと所在なげに掻く圭一の足下には下駄箱で回収したチョコでふくれあがった鞄。
そして左手でお腹の前に抱えるかのような新たなるチョコ達。
始末に困った感をもろに出しつつ席に向かう圭一であった。
「訳わかんねぇ……沙都子のトラップよりある意味始末に負えん」
そんな圭一を余所に魅音とレナは沙都子・梨花・羽入の元へ。
「迂闊だったよ……朝っぱらからこんな事態になるなんて」
「ほんとうですわ! おかげで今朝はトラップも仕掛けられませんでしたし、もちろんチョコも渡せませんでしたのよ」
「これで渡してたら存在感全くナシだったのですよ、みぃ……」
「あうあうあう~、教室中がチョコの甘いにおひれよってしまっらのえす~、きゅ~」
「は、羽入ちゃんしっかりして?!」
一方、圭一は富田岡村のコンビに捕まっていた。
「ま、前原さんすごいですね……ほぼ女子全員から貰ってるじゃないですか」
「僕も大樹もまだ0個なのに……」
「あぁ? チョコか……にんともかんとも……だいたいこんなにたくさん貰っても一人で食えやしねぇぞ」
一瞬、富田と岡村に殺気が漂ったのは言うまでも無い。
「まぁもらい物だからそう粗末にはできんし……当分、おやつや夜食はチョコばっかりだなこりゃ。たっぷり一ヶ月は掛かるぞ全部消費するのに」
「で、前原さん! 委員長達からは貰ったんですか?」
「そうです! 古手とか北条とかからはどうなんです?」
「ん? そういやあの連中からは音沙汰無しだな。まぁこれ以上貰っても俺も困るっちゃ困るんだが……持って帰るだけでも一苦労だしな。そういうとこ空気読んでくれねぇかな、たははは」
ちなみに当然のように、圭一の机の中にもチョコの箱が目一杯詰め込まれていた。
富田と岡村は己の無力さを呪った。
自分達にもう少しの体格と腕力さえあれば、この傲慢で鈍感な男に正義の鉄槌を下せる物をと。
そうこうするうちに担任である知恵留美子が現れ、いつものように授業が開始された。
午前中の授業も終わり、知恵が委員長である魅音に声を掛ける。
「それじゃ園崎さん、号令を」
「きり~つ! きをつけ~! れいっ!」
「あ、そうでした、前原くん!」
「は、はい?!」
「お昼休みに入る前にちょっと職員室まで来てくださいね」
知恵に呼ばれて職員室へ訝しがりながら向かう圭一を見送ったいつもの面々は……
「ま、まさかいくらなんでもねぇ……」
「でもでも、知恵先生まで渡してたら大変なんだよ、だよ?」
「知恵先生がそんな圭一さんだけ特別扱いなんてなさるとは思えないんですけれど?」
「それに知恵の事だから渡すとしてもカレー味のチョコなのです。とんでもない物を渡されて圭一もかわいそかわいそなのです」
「カレー味の辛味がするチョコなんて……甘ぁ~いチョコが台無しなのです」
圭一が戻ってきた。
予想通りと言うべきか、その手にまた新たなチョコの包みを複数持って。
「えー、男子諸君! 知恵先生からのバレンタインチョコの配給だ! ありがたく受け取るように! ちなみにカレーは入ってないそうだぞ」
と一声掛けて、各自にチョコを配っていく圭一であった。
一通り配り終えた圭一の手元には別の包みが一つ残されていた。
「あら、圭一さんそれはどうしたんですの? 皆さんにお配りになったのではございませんの?」
「おう、配る分は全部配っちゃったぞ。これはなんでも配給係を仰せつかった俺用に別個だそうだ」
昼食の為に集まっていた部活メンバーの間に冷やっとする空気が流れる。
「うぉ、寒っ! ドア閉め忘れて来たかな俺?」
ドアを確認に行く圭一。
「知恵先生……あんたまで……」
「やっぱり油断しちゃだめだったんだよ、だよ!」
「うう、これで今渡したらまた空気になってしまうのですわ、むきー」
「こうなると全員放課後に渡すしかないわね……知恵……覚えてなさい……」
「あう? 梨花ぁ~、素がでてるのです!」
戻ってきた圭一が弁当箱を取り出し、声を掛ける。
「よっしゃ、やっと昼飯にありつけるぜ! いっただきまぁ~す」
めいめいが弁当を開け、いつものおかず争奪戦になりながら昼食の時間は過ぎていくのであった。
明けて放課後、部活の時間である。
「ふー、やっと放課後だよ。今日はなんかチョコばっかり貰って、鞄とか机が甘ったるい匂いでいっぱいだぜ……まさか、お前らまでチョコ攻めしようってんじゃないだろうな?」
圭一の余計な一言は悲劇を招いた……
怒りを纏った魅音、レナ、沙都子、梨花、羽入の集中砲火を一人で受けなければいけなくなったのだ。
いつもの如くというか、当然の結果というか、余計な一言によって圭一は厳しく集中砲火を受ける羽目になり、またしても圭一は最下位を独走。
本日の罰ゲームも圭一と言うことになってしまった。
「なんだよ、また俺の負けかぁ?! 勘弁してくれよ……しょうがねぇな! 今日の罰ゲームはなんだ魅音!」
「今日の罰ゲームは簡単だよ。あたしら全員から順番にチョコ受け取って、その場で全部食べて、感想を言うこと! そして来たる3月14日のホワイトデーには今日渡したのに見合うお返しをすること!」
「ちょっとまてって?! 全部って5人分をか? 勘弁してくれって! いくら俺でもそんなに食えないぜ? それに今日は他の子達がくれた分もいっぱいなんだよ、チョコはもう勘弁してくれっての?!」
氷のような冷徹な5つの視線が圭一を襲う。
「全部、食べられなかったらケジメつけて貰うかんね!」
「圭一くんは、レナのチョコが食べられないのかな、かなぁ?!」
「受け取らないとか食べられないとかおっしゃられたらどうなるかよ~くお考え遊ばせ!」
「もし、拒否したらオヤシロ様に言って祟って貰うのです、にぱ~★」
「そうなのです! 感謝して完食するのです! そしてお礼をよこすのですっ!」
5人が用意した物は全て、彼女たちが精魂込めて用意した逸品ばかり。
しかも量もそれなりにある。
圭一は青息吐息でなんとか全部平らげて、辛うじて皆が納得する感想を言うことが出来た。
既に校舎の外は日が落ちて薄暗くなっていたが……
帰宅後、チョコの山を持ち帰り、テーブルに突っ伏す圭一に藍子が声を掛ける。
「どうしたの、これ? 全部あんたへのチョコレート?」
「あぁ、らしいよ。ったくどうしたってんだよ、みんなさぁ?」
「魅音ちゃん達はどうしたの?」
「あぁ罰ゲームでもの凄い量のチョコ食わされて腹いっぱいだよ……晩飯食えないかも。なんであいつらあんなにムキになってたんだかわかりゃしねぇ……」
みんなごめんなさいね……またウチの圭一がやらかしちゃったのねと藍子は心の中でみんなに詫びるのであった。
せめてもお詫びに3月14日のバレンタインデーには例え圭一のお小遣いをどれほど使ってでもみんなの気持ちに報いるだけのお礼をさせようと固く心に誓う藍子であった。
翌日、伊知郎に連れられてエンジェルモートへ行った圭一が更にウェイトレスの子達からチョコ攻めにあい、当分の間甘い物はもう要らないと涙し、それを知った部活メンバー一行の怒りを更に呼んでその後も数日の間、部活の罰ゲームによる圭一の悲鳴が分校にこだまし続けたのであった……
雛見沢、難攻不落の三冠王、前原圭一。
世間では新たな恋も生まれるバレンタインデーも雛見沢の誇る(?)、ヘタレ・鈍感・ノンデリカシーの最強三冠王にはまったく意味が通じなかったようである。
もうすぐ園崎魅音の受験。
そして卒業式。
春の雪解けまではまだまだ遠い、雛見沢。
三冠王攻略戦はまだまだ続くのであった……
- TB-URL(確認後に公開) http://dtany.net/091/tb/
