▼ 2009/04/15(水) 歓送の歌
見事に電源コンデンサだけがイカれたX41のせいで思うように仕事も進まず、ろくでもない年度末から年度初めという状態でございました(とほほ)
一応、新機種としてT43を中古で購入し、X41の電源異常をカバーするためにウルトラベースX4購入と大散財ですよ、ええ(苦笑)
そんな中、ヤケクソというか現実逃避の一環で魅音の卒業式を描いてみました。
魅ぃ好き大集合な魅音ポータルで先行公開していた物です。
コンセプトテーマ曲:「歓送の歌」 作詞:小椋佳 作曲:星勝 歌:小椋佳
それではどうぞ~
昭和59年3月、まだまだ積雪の残る中、雛見沢分校はたった一人の卒業生を送り出す卒業式の日を迎えようとしていた。
その卒業生である園崎魅音と双子の妹である詩音の受験も無事に済み、二人とも晴れて合格を勝ち得ていた。
魅音はまるで受験勉強期間中の鬱憤を晴らすかのように受験後から部活をより熱心に行い、今や雛見沢の名物男となりつつある前原圭一の恥ずかしい姿が降り積もった雪の中でさえ見られる日々があった。
「いっひっひっひ~、圭ちゅわぁ~ん、どったのかなぁ? 威勢が良いのはいっつも部活が始まるまでだねぇ! うししし」
「うっせぇーっ! ちっくしょーっ! なんで勝てねぇんだ俺は?!」
今日も今日とて、卒業式の予行演習の後、魅音により部活が開催され、案の定と言うか、圭一はまたしても最下位に沈んで罰ゲームとしてこれまた恒例の如く、メイド服を着せられていた。
「こう……女装に慣れきった自分の体質がもはや怖いぜ、俺は……くぅっ」
「あははははは。今日も圭一くんはとってもかあいくなっちゃったんだよ、だよ?」
部活に参加しているのはいつものメンバーである。
魅音の一級下で、圭一の同級生である竜宮レナ、更に下級生である古手羽入、まだ小学生の古手梨花と北条沙都子の計6人。
「今日も圭一はかわいそかわいそなのです。にぱー★」
「あううう、圭一の頭を撫でてる梨花の笑顔が黒いのです! 怖いのです!」
「ほんとに駄目な殿方でございますわね、とうとう今日もお負けになるなんて!」
笑顔で口々に圭一をはやし立てる面々であった。
ふとレナが魅音を見つめる。
魅音が僅かにその横顔に寂しさを漂わせている事に気が付いたからだった。
「魅ぃちゃん……」
「あ、ごめんごめん。ちょっとね……あ、あはははは! こうやってみんなでこの教室で部活するのも最後だなぁってちょっと思っちゃってさ! おじさん、ちょびっと似合わないのに黄昏ちゃったよ」
珍しくも素直に気持ちを吐露してみせたのは、卒業を明日に控えいつも以上に感傷的になっているせいだったであろうか……
「バカ言うなよ! 別にここ卒業したからって部活に参加しちゃいけねぇって決まりは無いんだろ? それにそもそも永世部長様だろうがよ、魅音はさ」
圭一が珍しくも気を遣った発言をする。
ほんの僅かだけ、笑顔を見せた魅音は言葉を続ける。
「そりゃそうだけどさ。興宮はやっぱちょっと遠いかんねぇ……そうそう毎日今までみたいには過ごせないよ。今までと違ってこれからはおおっぴらにバイトも出来るからってんで、既にがっちりスケジュールが詰まってたりするしさぁ!」
「え? 魅ぃちゃんってそんなにたくさんバイトするの?」
「うん。やっぱり自転車で通うのって結構大変じゃない? だからさ、おじさんバイトして通学用にバイク買おうかなぁって思ってんのよ。まぁ原付しか無理なんだけどね、校則で決まってるしさ、あはははは。当然ばっちゃから出たのは免許取って良いってのと買っても良いって許可だけで費用は自前で賄わなきゃなんだよねぇ……甘かった。卒業祝いでどっちかのお金は出るかと思ってたんだけどさ、がははははは」
魅音を除く5人が少し寂しそうな顔を見せる。
「詩音はさ、『私は自転車で通える距離ですから、お姉が葛西に送迎して貰えばいいじゃないですか?』って言ってくれるけど、葛西さんだって都合あるし、そうそう気軽に運転手代わりにしちゃいけない気がするんだよね、あははは」
「そっか……ちょっと……いや、かなり寂しくなっちまうな。張り合いも減る気がするぜ」
「ありがと! その言葉が何よりのおじさんへの餞だよ、あはははは」
さて!と一声を上げて魅音がみんなを見渡す。
「でだ! いよいよ初代にして永世部長であるこの園崎魅音様の卒業式も明日な訳で、新しい部長を決めなくちゃなんないんだよね。ほんとならもっと前に決めてても良かったんだけどさぁ……居心地良いからおじさんちょっと調子に乗って長く居座っちゃったよ!」
「魅ぃの後の部長はボク達の中ではもう決まっているも同じなのですよ、魅ぃ?」
「うん、そうだよ! 魅ぃちゃん後を継ぐのは決まってるもん」
「そうですわ、他の方には無理ですから」
「魅音の代わりは誰にも出来ないのです。ですけれど、魅音の次に部長をするのにふさわしいのは一人だけなのです」
どうやら、当人を除く残りのメンバーの間では魅音の後継部長は決まっているようであった。
しかし、それに異を唱える人物が一人だけ居た。
「そんなもん、ずっと魅音が部長で良いじゃねぇかよ! 元々始めたのも魅音だし、そりゃ今まで見たいに毎日は無理だとしても、時々は来られるんだろ? だったら、代理くらいで良いんじゃねぇか?」
「圭ちゃんさ……そう言ってくれるのおじさん凄くうれしいんだけど、それじゃダメなんだよね」
「何がだよ?」
部長交代に不満げな圭一をメンバー全員が強い意志の込められた瞳で見つめる。
そして魅音は自分の考えを続ける。
「あたしはここを明日卒業なんだよ。区切りだからさ、ちゃんと委員長も部長も後進に譲って安心して卒業したいんだよ。委員長の方は4月の新学期始まったらきっと知恵先生の仕切で選挙って事になるからあたしがどうこう言うのはナシだけどね。部長の方はみんなが了承してくれるんなら初代部長の権限って奴で後任を決めたいのさ」
「けどなぁ……やっぱ、お前が部長じゃない部活ってのは俺にはちょっとしっくり来ないぜ?」
「なぁにそのうち、あたしが居ない部活ってのも普通になってくってば! そうじゃなきゃ、圭ちゃんもレナも来年はあたしと同じ立場なんだし、そうなったら羽入や梨花ちゃん、沙都子達がやりにくくなるじゃんさ。新入部員を募るのも良しだし、新しい年度には新しい部長と新しい部活のスタイルって奴が良いよ。そうでなきゃさ……」
そこまで言って魅音は一層、寂しげな表情を浮かべる。
「あたしが心残りですっきりしないんだわ、あははは。ごめんね、圭ちゃん。おじさんの最後の我が儘だと思ってオッケーしてよ? 未練がましい気持ち残して卒業したくないんだよ」
「魅音にそう言われちゃ反対も出来ねぇな、わかった。」
「ありがと」
魅音は意を決した表情で後任の名前を挙げる。
「レナ、あんたは最古参で最上級生になるけど、ごめんね。あたし、次の部長は圭ちゃんにやって欲しい」
「うん、レナはそれで良いと思うな、思うな」
「「「意義な~し」」」
「はぁ? 俺? 俺かよっ?」
圭一だけが意外な顔をした。
「だって、魅ぃちゃんと並ぶみんなのリーダーは圭一くんだもん、レナは当然だと思うよ」
「成績だけでみたら確かに圭一さんでは物足りませんけれど、わたくしも圭一さんでよろしいと思いましてよ」
「圭一しか居ないのです。圭一は確かに僕と同じで最初からのメンバーでは無いけれど、魅音の次は圭一だと思いますです」
「いったいどこの誰が、魅音の居なくなったこのメンバーを一つに出来るの? あなた以外には無理でしょう?」
少々困り顔に変わった圭一に魅音が告げる。
「圭ちゃん。夏のあのややこしい事件の時だって、部活の最中だって、あたしの受験の時だって……ずっとみんなを一つにまとめてきたのはあたしじゃないよ。圭ちゃんだよ? あたしはそれに乗っかってた御輿みたいなもんさね。圭ちゃんなら今まで以上に部活を、この分校をまとめていってくれるってあたしは信じてる。だから圭ちゃんに次やって欲しいんだよ」
「魅音……」
「うんって返事聞かせてよ! じゃないと、じゃないとあたしさ……ほんとに……」
「わかった! あぁやらせて貰うぜ! いややってやるぜ! 俺が今まで以上に盛り上げて初代部長に恥かかせないようにしてみせるぜ!」
よかったと喜ぶ5人。
魅音の瞳にはほんの少し、光るものがあった。
「よし、それじゃ明日の卒業式が俺様の部長としての初仕事って訳だな! 知恵先生と校長先生から在校生代表仰せつかっちゃってるし、いっちょ派手にぶちかますか?!」
「あー、でも明日はばっちゃも父さん母さんも来るからおふざけほどほどにしないとケジメ取らされるよ?」
「ぐはっ! そういう事はもっと早く言え!」
笑い声が卒業式を明日に控えた、放課後の分校教室に響く。
解散後、帰宅した圭一は原稿用紙を前に唸り始めた。
「あら、圭一どうしたの?」
「あぁ母さん、明日の在校生代表の挨拶、原稿書き直してんだよ」
「昨日書き上がったって言ってたでしょ?」
「いやぁ……それがさ……魅音ちの婆さんやおじさん、おばさんも参列って話だからさ。失礼な内容でもあった日にゃ俺が鬼が淵に簀巻きにされて放り込まれそうでさ、たはははは」
母親である藍子にバカな事言って笑いを取ろうとか考えてたの?と呆れられつつ、圭一は原稿を書き直すのであった。
明けて、卒業式当日。
式次第は事もなく順調に進んで、いよいよ在校生代表挨拶となった。
「在校生代表、前原圭一くん!」
「はいっ!」
司会進行を勤める担任の知恵留美子に呼ばれ、返事をしつつ圭一は立ち上がり、教壇に向かう。
「送辞。園崎魅音さん、卒業おめでとうございます。私は昨年の初夏、ここへ転入してきました。新しい環境に馴染めるかどうかもまったくわからず、内心不安でいっぱいでした。そんな私に貴方はとても気軽に声を掛けてくださいました。初めて出逢ったその日から、私の内心に少なからずあった不安というよどみは消えさり、まるでこの雛見沢の済んだ夜空に星が瞬くが如く新生活に輝きを見いだし、力が満ちてくるのを感じたものです。全て、貴方のお陰だと思います。普段の生活から始まり、今日この日までお互いの情熱と夢をぶつけ合うようにして過ごして来た時間がその証しです。貴方を送り出すこの日まで、何においても真剣で一生懸命な貴方の姿は私の、そしてクラスメートであり下級生である分校のみんなに取っても良き記念碑であり、共に過ごせた日々を誇りに思います。過ごした日々は光り、煌めき、熱いまるで祭の最中のような明るさと楽しさと激しさでした。貴方は我々より一足早く、この雛見沢分校と言う学舎を巣立ちます。しかしそれは決して別れではありません。我々にはこの学舎で培い、しっかりと通わせた心があります。心通う限り、別れではありません。我々も順番に貴方に続きます。この先、新しい環境で困る事、苦しい事、辛い事が貴方を襲うかもしれません。けれど、あなたの背中にはいつも我々が続いている事を忘れないでください。振り返り、我々が居ることを確かめてください。雛見沢の魂は今もここにあります。一人に石を投げられてたら二人で石を投げ返せ。二人で石を投げられたら、四人で石を。八人に棒で追われたら、十六人で追い返せ。そして千人が敵ならば村全てで立ち向かえ。一人が受けた虐めは全員が受けたものと思え。一人の村人のために全員が結束せよ。それこそが盤石な雛見沢の魂。みんなの結束は岩よりも硬く、水を通さないダムすら通さない! その精神は我々にも受け継がれ、ずっと続いて行きます。園崎魅音さん、貴方を送り出すのにどれほどの言葉を並べてもそれは我々の気持ちの代わりにはなりえません。ですから今後の我々の行動をその気持ちにしたいと思います。卒業生として、先輩として我々の今後を暖かく見守ってください。それを今日、この日に貴方への歓送の言葉とさせていただきます。今まで、ほんとうにありがとうございました。」
一瞬の静寂をおいて、分校の教室内に拍手がわき起こった。
誰もが圭一の言葉を聞き、胸躍らせ、熱い気持ちに満ちていた。
まさに口先の魔術師の面目躍如であった。
ポーッとなった魅音に知恵が声を掛けた。
「卒業生答辞。園崎魅音さん」
「ひゃ、ひゃいっ!」
圭一と入れ替わるように教壇に立つ魅音。
一つ深く深呼吸をするようにしてから在校生、来賓、家族を見やって魅音は語り出す。
「来賓の皆様、校長先生、知恵先生、そして在校生の皆さん。本日は私、園崎魅音一人の卒業式をかくも盛大に執り行っていただき、感謝の言葉が上手く出てきません……えっと……その……いろいろ言うことを考えてきましたが、ついさっきの圭ちゃん、前原圭一くんの言葉で全部吹っ飛んじゃって……ごめんなさい。いろいろ気ままに振る舞ったり、みんな一人一人の事にちゃんと気を廻すことができなかったりしていろいろ迷惑を掛けた事も多いかと思います。でも私はこの雛見沢分校の生徒で良かったです。みんなと一緒に過ごせて良かったです。みんなの仲間で居られて良かったです。これから先、今までのようには行かないと思います。今まで以上に失敗したり気が付かなかった迷惑掛けたりを繰り返してへこむこともたくさんあると思います。でも、でもみんなと作って来た思い出があれば絶対に私はそれらにめげたり負けたりすることなく、前を向いて進んでいけると思います。みんな……ほんとうにありがとう……ありがとう……ありがとう」
最後は涙声になり、ありがとうを繰り返す魅音の姿に泣き出す生徒も大勢いた。
魅音の母、茜は魅音の祖母であり、自分の母であるお魎がその目に僅かばかりだが涙を浮かべているのを見逃さなかった。
母は本当に昔のように優しい気持ちを素直に出すようになってきたと一層、感慨を深める茜であった。
圭一の言葉と魅音の素直な言葉は家族として参加したお魎達、園崎家の人々の心をも強く打ったのである。
卒業式は無事終了した。
この日を境に園崎魅音は少しばかり今までと違う暮らしをしていく。
残った在校生達もそれは同じであり、部活メンバーも同じであろう。
少しだけ、今までと違う距離で過ごしていくであろう彼らの関係はこの先も決して変わる事はないだろう。
まもなく雪解けの本当の春が雛見沢を訪れようとしていた。
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