▼ 2009/05/05(火) 春きたりなば
というわけで……i-love-mion.netに掲載してた奴の再投下でございます。
雛見沢分校での始業式の裏で行われていた(裏か?)興宮での入学式を含む園崎家のドタバタを一本。
ま、短いんでサラッと読み流してください(笑)
それではどうぞ。
昭和59年4月、ようやく春めいてきた雛見沢であった。
雪国故か、ようやく桜の開花を迎えようかという季節、園崎家では少々朝から騒がしい雰囲気であった。
「魅音、用意はきちんと出来てんだろうね?」
「当たり前じゃん! いくらあたしでもこういう時はピシっとするってば~」
「お姉っ!、それお姉のじゃなくてわたしのです!」
「ありゃ、ごめんごめん」
今日は園崎家の双子姉妹、魅音と詩音の高校の入学式である。
早朝から母親、茜に声を荒げられながら慌ただしく用意を調えている最中であった。
あきれ顔でため息をつく茜を見ながら、茜の母であり、双子姉妹の祖母であるお魎は目を細め、僅かに口元を歪めていた。
初めて見るものが居れば恐れを感じるかもしれない表情であったが、彼女なりの笑顔なのである。
「ったく、どこの誰に似ちまったんだかねぇ、二人とも! 夕べのうちにきちんと用意しとくって事が出来ないんだからサ」
「なぁん、おまえやちゅうて同じやったやないかい。さんざんっぱら慌てた挙げ句にあんだけうるそう言うておいたちゅうに宗平さんに線香もあげんと出ていきよったやないか」
「あれ、そうだったかね? あっはっは、そんな昔の事は忘れちまったってもんさね……おっと! あの子らにも仏壇に線香上げさせるの忘れちまいそうだったよ!」
慌てて、二人の娘の元へ向かう茜であった。
それを見送りつつ、ふんと鼻で一つせせら笑って一足先に仏前に向かうお魎であった。
「宗平さん、ようやっと魅音と詩音が高校生になりよるんよ……早いもんやな……ついこないだまでちんまい姿で騒がしゅうして庭で遊んでたような気ぃがしよる。年食ってしもうたんやなぁ、最近は昔のことをようけ思い出すようになってしもた……けんどな、宗平さん。雛見沢はそんだけの年月経っても宗平さんが大好きやちゅうてくれたままや……ちぃとここ何年か騒がしゅうする時もあったけんど、それも片付いた。若いもんに元気でうるさい坊主がおってな……淀んでた空気もまとめて一緒に吹き飛ばしてくれよったんよ。後は魅音が一人前になってくれりゃぁ先々の心配ももうせんでもええかもしらんよ、宗平さん」
足音が三つ、ドタバタと近づいているのに気が付き、お魎は表情をいつものように固まらせる。
まるでその直前まで見せていた柔らかい表情は愛する夫である、故園崎宗平その人だけにしか見せないとでも言うように。
「ほれ、あんたらもさっさと爺様に線香上げて、無事に高校生になりましたって報告しなっ!」
「わかってるってば!」
「わかってますって!」
親子三代、計四人が仏前の前に正座してめいめいが線香をあげ、手を合わせて、静かな時間が僅かに流れていた。
「茜さん、そろそろお出になりませんと……」
廊下から低く静かな声が上がる。
見るからにその筋といった雰囲気を漂わせ、廊下に座していたのは葛西辰由であった。
茜達の運転手兼ボディガードと言ったところであろうか。
「あいよ! 忘れもんは無いんだろうね?」
「うん、大丈夫! 今日必要な物は全部揃えたから」
「詩音はどうなんだい?」
「大丈夫ですよ、夕べこっちに来る前に全部揃えて車の中ですから」
やや安堵の表情を見せた茜、そして魅音、詩音の三人ははお魎に向き直り、出立を告げる。
「それじゃ、母さん。行ってくるよ」
「じゃ、ばっちゃ行ってきます」
「それじゃお婆ちゃん行ってきますね。もっともわたし、今夜はこっちに来ませんけど」
ドタバタと三人が出掛け、一人広大な園崎本家に残されたお魎は独り言をつぶやく。
「なんやいつもの事やと思ってたけんど、静かになってしもうたな……」
肌に心地よい柔らかい風が一陣、仏間に吹き込んできた。
日差しは暖かくそして柔らかい。
お魎は今日は縁側でひなたぼっこでもしようかのと腰を上げるのであった。
入学式も無事に終えた後、茜、魅音、詩音は葛西の運転する車で興宮の園崎家に移動していた。
「なんだい、魅音。式の最中もだけどさっきからもぞもぞして! 見てるこっちがそこかしこが痒くなっちまうじゃないかい!」
「あ、ご、ごめんなさい。 なんかまだこの制服着慣れてないし、分校の時に履いてたのよりちょっと短いから微妙にスースーしちゃって……」
母に一喝されて凹む姉を見て詩音がいつものように弄る。
「お姉は愛しの圭ちゃんに見せたらどう思うかで頭がいっぱいなんですよ、きっと」
「し、ししししお~んっ!」
「なんだい、まだ見せてなかったのかい? せっかくの晴れ姿なんだからまだキレイなうちに見せといた方がいいんじゃないかい?」
「か、母さんまでぇ~っ……そんなつもりじゃないんだってば! それに何? ”キレイなうちに”って? まるで汚くなっちゃうみたいじゃんさっ!」
一学年下の前原圭一の名前を出され、憤慨して母と妹に食ってかかる魅音を見て、ニヤニヤする茜と詩音であった。
「どうせあんたのこった、ものの数日で校内で暴れ廻って、あっというまに新品の制服もボロボロにしちまいそうでねぇ……母親としちゃそんなくたびれた制服姿のあんたを未来の婿さんに見せたくないってもんさね」
「そうですよ。どうせお姉ですから、もって三日くらいだと思いますし……あれ? 反応無いですね?」
茜の”未来の婿さん”の段階で魅音は真っ赤になり、硬直状態になっていたのであった。
「あ~あ、こりゃ再起動にちょっと時間掛かりそうですよ、お母さん」
「なぁに、こんなもんは斜め45度で二、三発チョップいれりゃすぐだよ、すぐ」
そういって魅音の頭に手刀を作ってチョップを入れようとする茜であった。
「はっ!」
殺気を感じたのか、一瞬で再起動する魅音。
と、同時に……
「ひゃ……ひゃっくしょんっ!」
盛大に大きなくしゃみを一つ。
「お姉! 汚いじゃないですか! お姉の制服が汚れるのはどうでも良いですけど、わたしの制服が汚れちゃうでしょうに!」
「ちょ、ちょっと、詩音あんたね?!」
「はいはい、いい加減静かにしておくれ! ただでさえ、騒がしいんだから、あんた達は!」
茜に注意されて、二人はそれぞれ紅茶を一口啜って落ち着きを取り戻す。
「分校の始業式ももうそろそろ終わりかなぁ」
「そうですねぇ……そう言えば新しい委員長は誰になったんでしょうね?」
「そりゃ……圭ちゃんかレナかどっちかだよ。まぁあたしの見るところ圭ちゃんが有力だけどね」
「おや、我が事のように自信満々ですね? まぁ確かに圭ちゃんが委員長の方がしっくりは来ますけどね」
二人は分校に残る仲の良い仲間のうち、最年長の二人、前原圭一と竜宮レナのどちらが委員長かという話題で盛り上がっていった。
しばし後、茜がニヤリとして、二人の娘に提案をする。
「どうだい? 別にこの後用事が特にあるわけじゃないし、揃って雛見沢まで行ってどうなったか見てくるってのは?」
「良いですねぇ、賛成です。沙都子にねーねーの麗しい高校生の制服を見せたいですし」
「え、え? 今から? せめて一回本家に寄って着替えてからじゃダメ?」
「何言ってんだい、このすっとこどっこいが! あんたの愛しの圭ちゃんが委員長になったかどうかを確認するのはオマケで、本当の目的はあんたのその晴れ姿を見せに行くことだよっ! 葛西! 葛西! 車用意しな! 三人で分校に行くよ!」
バタバタと再び騒がしく用意をし、三人は葛西の運転で再び雛見沢へと向かう事になった。
部活の真っ最中に到着した三人が加わり、新年度部活初日は一段と大騒ぎになった。
テレているのか妙に大人しい魅音にレナのかあいいモードが炸裂し、魅音の真新しい制服姿を評していつもの萌えを発動した圭一がレナのレナパンで地に沈み、圭一の言葉で再び機能停止した魅音の再起動に茜が斜め45度のチョップを見舞い、悲惨な姿を曝す圭一や痛がる魅音の頭をいつもの如く、下級生の古手梨花が撫で撫でしといった具合である。
今日も分校の教室内には騒がしい嬌声と笑顔がいつものように満ちていた。
春の暖かい日差しと穏やかで柔らかい風が雛見沢を包む。
まもなく桜がその花を咲かせ、より一層風景を美しく彩る事だろう。
昭和59年春、雛見沢はいつも以上に平和であった……
-->
- TB-URL(確認後に公開) http://dtany.net/095/tb/
