▼ 2008/11/18(火) 賽殺し編After~運命は偶然と必然~ 第1話
公式サイトの掲示板には各キャラのファンスレなんてのがあったりします。
で、当然ながら魅音スレもございまして、魅音スキーの一人としてぽつぽつと参加してたりする訳ですが……
クリスマスの頃から来年の1月一杯を掛けて
【魅音スレ主催!! 皆を幸せに満たせ!! ほのぼのSS&絵大集合!!】
なんてな企画が催されます。
で、その企画への参加作品の前編をとりあえず公開
(いや、なんせ結構なボリュームになってしまってますので、分けて公開しないと読み辛そうだしって事で……)
そんなこんなで復活第1弾はアニメ化記念も兼ねてお題は「賽殺し編」
一風変わった賽殺し編のその先をお届けします~
昭和61年3月、中高一貫の全寮制女子校である聖ルチーアの卒業式を控えた詩音の元に姉魅音から電話が珍しく掛かってきていた。
「元気そうだね。よかったよかった。引っ越しだとかいろいろあってさ、あんまり連絡取れなかったよ。ごめんね」
「ううん、大丈夫。お姉ちゃんこそご苦労様です。自分の卒業だのなんだのって忙しいはずなのに私のこともいろいろ気を遣わせちゃって」
「気にする事無いって、あはははは。それにさ、詩音が東京の学校行くのはあたしの希望でもあるんだからさぁ。一応まじめに高校は通ったとは思うけど、しょせんずっとこんな田舎町に居るようなもんだもん。ほんとは婆っちゃの状態さえもっと良ければ、あたし自身が東京の学校へどんな形でも行って見聞広めておきたいとこだけど無理だからさ。せめてあんたにはちゃんと世間って奴を見てきて欲しいのさ」
雛見沢がダムに沈む事が決まり早数年、園崎本家頭首のお魎とその後継者である魅音には自身達の引っ越しだけではなく、新たに移転先を探し求める雛見沢の住人達の世話をするなど、多忙な日々を過ごしていた。
園崎魅音自身は当代頭首でもあるお魎の高齢による体調悪化を考慮して、高校を卒業と同時に次期頭首から頭首代行へとその立場を変える事を決めていた。
己の自由な未来を18歳にして閉ざされる事を余儀なくされた魅音は「せめて、今まで全寮制の学校に閉じこめられていた妹の詩音だけでも自由に過ごさせてやりたい。」とお魎に強く訴え、詩音の東京の短大への進学を認めさせたのであった。
「でも、お姉ちゃん、ほんとに良かったの? その……私だけ自由にって……」
「な~に言ってんだかね、この子は今更。だいたいさぁ、そのお堅いルチーアに6年も閉じこめられてあんたの方がよっぽど自由じゃなかったってばさ。うん、でもありがとね。気にしてくれてさ」
「あはははは。お姉ちゃんと違って私って割と流されやすいとこあるじゃないですか。だから結構、居心地良かったですよ、慣れちゃうまで大変だったかなとは思いますけど」
「まぁそうだろうねぇ あははははは。あたしだったら絶対に耐えられなくて脱走してるよ~」
「あはははは、お姉ちゃんってば~」
「うん、よく頑張ったよ、あんたは。あたしも姉として鼻が高いってもんさね」
久しぶりな事もあって、二人の他愛無いおしゃべりは続いていく。
「そういえば、雛見沢の人達って皆さん、落ち着けました?」
「うん、だいたいは済んだかな。残ってる人も移転とか引っ越し先は決まったからね。まぁ、遠くへ行っちゃった人達も居るけど、ほとんどの人は興宮界隈に引っ越したよ。古手神社も興宮の外れに移転決まってもうじき移築に入るしね」
雛見沢の土地神であり守り神であるオヤシロ様信仰は根強く、旧雛見沢住人の強い希望もあり、園崎家の尽力で興宮の外れに全面移築が決まっていた。
「あそこ、神社の娘さん。梨花ちゃんって前に話聞いた時にはちょっと大変そうだったんですけど、もう大丈夫なんですか?」
「それがさぁ、なんかあの後さ、別人になったみたいだったよぉ。ま、あたしとか礼奈とかが学校の中でだけでも仲良くできないかなって思ってさ。あんたのアドバイス通りにゲームする部活とかやり出してからは打ち解けてきてくれてね。そうなると元が元だけに可愛いもんさね」
魅音がまだ、雛見沢分校に通っていた3年とすこし前、古手神社の娘である梨花と同級生である北条沙都子との間で起きた諍いは、周囲を巻き込む大事になりかけていた。
扱いに困り、弱り果てた魅音のグチを聞いた詩音からの「子供同士なんですから、ゲームとかでもやって競ってればケンカまでは行かなくなるんじゃありませんか?」という一言をきっかけに、部活という形でゲームを放課後行い、競い合う事を経て多少なりとも改善を見せていた。
二人は「友人」と呼ぶほどの仲では無いにしろ、同じ雛見沢出身で興宮在住の人間として、そして中学での同級生としての僅かばかりの連帯感程度は存在していた。
また、御三家同士でもある為、魅音との交流も滞りなく行われるようになっていた。
「興宮の中学に進学したときは沙都子がさ『また同じ学校だなんて、イヤだ』とか言い出したんでさ、”またかよ”と思ってヒヤっとしたんだけどさ、あはははは。悟史の話だと沙都子は口で言うほどイヤがってなかったっぽいよ」
「そうなんだ! よかったです。みんなが仲良くしてくれるのは良いことですよ」
「いやー、あの時あんたに叱られなかったら今頃どうなってたやら。ほんとにそれについては詩音に頭が上がりません」
「まったくですよ。園崎本家の次期頭首ともあろうお人が、いくら梨花ちゃんが素直じゃないとか生意気だとか言う理由で、いじめ紛いに荷担するだなんてやって良い事じゃありません、ほんとですよ?」
元々は梨花の頑で素直ではない態度や、オヤシロ様の生まれ変わりと言われる母親の威光を嵩にきたとも言える高慢な態度もあって、彼女は周囲から孤立し、ともすればいじめに近い行為も行われる結果となり、クラス委員長たる魅音がそれを咎めることもなく、場合によっては荷担したと見られかねない時期も確かにあった。
「はー……でも、そんなに楽しく過ごせるんなら私も一回くらいはお姉ちゃんの部活ってのに参加して見たかったなぁ。せめて礼奈さんとか悟史さんとかとは会ってみたかったですよ」
「そうだねぇ。けどさ、これからは別に長期休みの時とかはこっちに帰ってこられるんだからさ。そん時にでも紹介するよ。悟史は市役所に就職だからそのまま地元だし、今年度いっぱいは礼奈もこっちに居る訳だし、仮に卒業しても礼奈の進路は穀倉の専門学校の予定だって言ってたから夏休みとかだったら会えるって」
「へー、何の専門学校なんですか?」
「なんか服飾デザイナー目指すんだって。あんたはTVとか見られないから知らないかもだけど、コマーシャルバンバン流してる大手の専門学校みたいだよ」
竜宮礼奈にとって、自身の将来の夢は両親と同じ服飾デザイナー。生まれも育ちも雛見沢であった事もあり、興宮に移転した実家から通える範囲で探したのだが、両親の仕事と同じ道に進みたい彼女の望むコースを持つ学校は残念ながら穀倉にしかなかったのだ。
北条悟史は無事、鹿骨市役所への採用試験に合格し、この4月からは興宮出張所の職員として働くことが決まっていた。
「そっか、あははは。夏休みとかも寮からほとんど出られないから、夏休みに帰省するって感覚が無くなっちゃってましたよ、てへ」
「なに言ってんのよ、この子は、ほんとに~。いい? あんたはもう自由。他人の事ばっかり優先してないで、そろそろ自分の事を真っ先に考えて自分のしたいようにすればいいの! ま、とはいっても当面は仕送り生活だから就職して自分のお金で暮らせるようになるまではそこそこ自由は制限あるだろうけど。あたしや婆っちゃはもちろん、父さん、母さんの言うことは聞いて貰わなきゃだからねぇ」
「自由になるって言われても、あんまり実感無いんですよね。でも自由って事は責任も自分で取らなきゃいけないんだって事くらいはわかってますし、仕送りの件もよくわかってますよ」
「だったら良いけどね、あはははは」
詩音は4月から東京の短大に進学する事で、事実上生まれて初めてと言っても良い、自由な暮らしをする事になったのであった。
詩音は魅音と共に双子として生まれながら、長子であり次期頭首である魅音と何かと区別される事も多く、幼少の頃は孤独に過ごす事が多かった。また長じては当代頭首お魎の指示で完全全寮制である聖ルチーアに入学させられ文字通り、自由とはほど遠い暮らしを重ねていた。
元来、物事に対して、受け身がちであり、自己主張を強くすることなく育ったせいだろうか、詩音自身はそれを淡々と受け入れて苦にすることもなく過ごしてきたのであった。
「あ、そう言えばさ。この間ちょっと面白い親子に出会ってさ~」
「へー? どんな人達なんですか?」
「親子でダムに沈む雛見沢をわざわざ見に来たんだって。物好きだよねぇ~」
「酷い言い方しますね、相変わらず、あはははは」
魅音は先だって興宮で出会った一風変わった親子について詩音に語り出した。
「なんかね、画家さんらしいんだけどね。ずっと前に一回、雛見沢を訪れてて、あそこの自然とか風景がが気に入ったんだってさ。で、完全に沈んじゃう前に息子さんに見せたかったんだって」
「へー、なんかロマンチックですね~」
「それがさぁ、実物は全然そうじゃないんだってば、あはははは。なんかね、食事する場所を探してたらしいんだけど、いきなりあたしに『お嬢さん、この近くに食事を出来る店はありませんか?』だって。で、あたしに声かけてきた理由がさ、『店の場所を聞くなら、地元の人に聞くのが確実。そしてどうせ訪ねるなら若い女性が良いに決まってるじゃありませんか!』だってさ、ぎゃっはっはっは」
あまりに迫真の魅音の声色に詩音もちょっと嫌悪感を示す。
「うへー。なんかちょっとイヤな感じですよ、それ」
「そしたら一緒にいた息子さんに『母さんに報告するからな』って怒られてんの、あはははははは」
「へー。じゃ息子さんはどんな感じだったんですか?」
「んー、あんまり話してないんだけど、なんか勉強は良くできるってお父さんが言ってたよ。『ガリ勉過ぎないように、たまにこうやって連れ出してるんです』だって。年はあたしらの一個下みたいだった」
「話した感じはどうですか?」
「なぁ~に~? そんなに興味津々な訳~? うひひひ」
魅音のからかう口調についつい詩音も言い返してしまう。
「学校の中でも寮の中でも男子の話なんか滅多に出ないんですから、興味も出ます!」
「はいはい、わかったわかった。そうだね、なんかもっとゆっくり話したら面白かったかなとは思ったよ。悟史と違ってちょっとガサツそうだったけどね」
「お姉ちゃんっていっつも男子の基準が悟史さんですねぇ、あははは。そっかぁガサツそうってのはちょっとイヤかなぁ」
「んー、でも良い子だとは思うよ。結局、善郎おじさんのとこ連れてったんだけどさ。ウェートレスの制服見て、お父さんの方は鼻の下だらしなく伸ばして『素晴らしい店だっ!』とか言っててちょっと引いたけど、息子さんの方は凄く純情っぽいらしくて真っ赤になって下向いて見ないようにしてたよ」
魅音の言う”善郎おじさんの店”とは”エンジェルモート”と呼ばれるデザートストランであり、そのウェートレスの制服の独特さから全国の好事家が集う人気店でもあった。
「んもー、お姉ちゃんってば! よりによって、なんでそんな店に連れてくんですか!」
「いやー、だって興宮らしい店っていったらあそこしか思いつかなくてさ、ぎゃっははは。あ、でもあそこ連れてったからかな。息子さんの方は結構優しいし正義感強いんだなってわかったようなもんだしね」
「優しいし正義感が強いんですか?」
「うん、だってウェートレスの娘がさ。前にも言ったことあったっけ? 制服が制服だから変な常連にちょっかい出されやすいって」
「ええ、聞きました。大変だなぁって思いますよ。私なんかには絶対に勤まりませんよ。無理ですね。」
露出の多い、ある種奇抜な制服のデザイン故か、エンジェルモートに集う好事家の中にはウェートレス達に直接的な行動に出る物も多く、時折店内では小さなトラブルが起きるのであった。
「で、いつものごとくちょっかい出してるのが居てさ。あたしが注意しようとしたら先にいきなり立ち上がって、『あの、いきなりですいませんけど……そういう事しない方が楽しくウェートレスさん達と話せて充実した時間になると思うんです!』って。いやぁ、あいつら見た目あんなだけど結構強かったりするし大丈夫かなと思ってさ、結局あたしも出てって収めたんだけどね」
「大丈夫だったんですか?」
「あったり前でしょ、あたしを何処の誰だと思ってんのよぉ? で、収まった後に『勇気あるねぇ?』って聞いたら『だって彼女、すごい困ってたし、可哀想だと思ったし』ってボソっと」
「へぇ~、そうなんですか」
「うん、だから優しさと正義感はちゃんとあるんじゃないかな」
初対面のしかもいわゆる”よそ者”に対しては辛辣な意見の多い魅音がそこまで誉めることは希だった事に詩音は少し驚いていた。
「珍しいですね、お姉ちゃんが馴染みの無い人を誉めるって」
「おろ? そうだっけ? ま、でもさ、なんかあんまり初対面って気はしなかったんだよね、なんでだか良くわかんないんだけどさ。お父さんの方も人当たりが柔らかいって感じだったしね。変な人は変な人だったけど、くっくっく」
「そうなんだ。でも、やっぱり卒業式後に一回、興宮に帰るようにすれば良かったかなぁ……私も、もう一度だけ雛見沢見ておきたかったなぁ……ルチーア行く前にお婆さんに挨拶に行って以来、丸っと6年以上行って無いんですよ? 生まれ故郷だっていうのに」
「しょうがないじゃんさ。いったんこっちに戻ってまた引っ越すより、そっちから直接の方が都合良いんだもん。付きそう母さんや葛西だってそう自由には動けないんだし、贅沢言わない! それに明日や明後日に全部ダムの底に沈んじゃう訳じゃ無いんだからさ。ゴールデンウィークにでも戻ってきなって」
詩音は聖ルチーアの規則に従っての退寮手続きの関係と引っ越しの手間や入学手続きなどの都合上、母である茜達と合流し、そのまま東京へ直接引っ越す事になっていたのだ。
「はぁ~、なんか新しい環境ってちょっと怖かったりしますよ。慣れちゃえば良いんでしょうけどね」
「あはははは、思い出すねぇ、ルチーアへ行く直前。怖がってピーピー泣いちゃってさぁ」
「小学校卒業と同時に一人っきりになっちゃうんですもん、そりゃ怖かったですよ。一人で居ることにはある程度慣れてるつもりだったですけど、ずっと一人なんて経験無いんですから」
「そうだね、ごめんごめん。そもそもあんたにそんな余計な事させないで済ませられるのが一番だったんだけどね……」
「仕方がないです。昔からある”双子が生まれたなら片方を間引くべし”とかって家訓を、お婆ちゃんが無視してくれたから今、生きてられるようなもんですから。生まれて産湯を使うまでもなく始末されてたかも知れないんですし」
「婆っちゃだってそこまで鬼じゃないよ」
「もちろんわかってますよ。だからルチーア行きだって怖くて泣いても、我慢して行ったんですから」
二人の電話での会話は続いていく。
「とにかく、引っ越しの時にはそっちにはあたしは行けないけど、夏休みとかになったらちゃんと帰っておいでよね」
「もちろん、帰りますよ。お母さんの手料理だってもうずっと食べてないんですから食べたいですし。」
「園崎さん、そろそろ電話を空けて下さい。あなた一人の電話ではありませんのよ!」
「はい、すみません。シスター。ということですから落ち着いたらまた連絡しますね。お姉ちゃんもお元気で!」
「おっと、ごめんよ、気が廻らなくて。うん、あんたも元気でね。なんかあったら今度はちゃんと相談してくるんだよ? あ、送る荷物にさ、さっきの親子のお父さんの名刺入れとくから。まぁ連絡することなんか無いとは思うけど、不慣れな東京だから少しでも縁のある人は居た方がいいじゃないさ。それじゃ、またね!」
通話を終えて、シスターに詫びを良いながら詩音は自室に戻っていった。
まもなく退寮。
詩音の新しい生活が始まろうとしていた。
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1: KK23 URL 2008年11月22日(土) 午後4時39分
真詩音萌えっす(^^;