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魅音幸せプロジェクトまとめ

2009/01/17(土) 欲張り

はてブ情報 はてブに登録 はてブ数 2009/01/17 19:23 SS部門Mr.D
 雪がしんしんと降るその日、圭一は園崎本家へと招かれていた......というよりも、頭首お魎とその娘である茜に呼び出されたというのが正しい。
 かなりの防寒をして家を出てきたのだが、それでも身体を冷やす雪国の冬に半ば圧倒されつつ、圭一は新雪を踏みしめて園崎家へと足を急がせる。
 用件は聞かされていない。
 ただ、茜から「ちょいと鬼婆様が話したいことあるそうだから来ておくれでないかい?」とだけ電話口で言われただけだ。
 正直言って何の話なのか皆目見当がつかない。
 圭一が家庭教師状態で手伝っている魅音の受験勉強は順調だし、何かバカをやらかしてお魎に叱られるような心当たりもない......はぁっと息を吐けばそれは煙のように雪と混ざって消えていく。
 やがて園崎家の大きな門の前に立った圭一はインターホンを慣らす......さほど待たずに和服姿の女性が静かに門から顔を出してくる。
「こんにちわ、茜さん」
「よく来たねぇ......寒かったろ? とりあえずは中に入りな」
「じゃあ、お邪魔しまーす」
 茜が先に立ち、圭一は園崎家の廊下を進んでいく。
 最近はよく来ているのでどこに向っているのかは大体分かる......どうやら、お魎のいる離れへと案内されているようだ。
「そーいや茜さん、魅音は?」
「あの子なら今日は鬼婆様の代理で会合に出てるよ。まあ、号令かけて園崎からの案件を話すだけだからそう苦労はないさ。さて、いきなり鬼婆様の部屋まで通すワケにもいかないから、この部屋で待ってておくれ。ああ、そこに生姜湯の粉とポット置いといたから飲んであったまっておきな」
 茜は圭一を離れの一歩手前にあるであろう一室に通し、穏やかな顔でそれだけ言うと部屋を出て行く。
 おそらく、お魎に圭一が来たことを知らせに行ったのであろう。
 遠慮するのも悪いと思ったのか、圭一は生姜湯を作って一口すする。
 優しい味が口の中に広がり、ゆっくりと飲み込むと冷えた身体にふわりとした暖かさが染み入っていく。
「うめー......」
 思わず呟いた圭一は黙々と生姜湯を胃の中に収めていく。
 そして丁度飲み終えた時、茜が障子を開けて圭一の名を呼ぶ。
「待たせたね。鬼婆様がお呼びだよ......先に言っておくけど、ちぃっとばかり真剣な話だからね」
「は、はい」
 茜の発する雰囲気に少し気圧されつつ、圭一は返事を返すと茜に従って廊下を歩きだす。
 真剣な話とは何なのか......心の中で首を傾げる圭一だが、ふとあることに気がつく。
 まさかな。
 言いかけた口を慌てて閉ざすと少しくぐもった音が漏れ、何事かと振り向いた茜に圭一は咳払いをして誤魔化す。
「どうしたい、風邪でも引いちまったのかい?」
「うーん、さすがにこんな寒さは初体験ですからね......帰ったら暖かくして寝ることにします」
「さぁて、すんなりと帰れるかねぇ? 鬼婆様の機嫌損ねたら厄介だよ?」
「げ、それは困る......」
 そんなやりとりをしていると、やがて茜が足を止める。
「母さん、連れてきたよ」
「入りな」
 障子の奥からお魎の声が聞こえ、茜と圭一は室内へと入る。
「お魎さん、こんにちわ」
「よう来たな......まあ、そこに座りぃ」
「はい......で、話ってのは......」
 圭一が尋ねるとお魎に変わって茜が口を開く。
「まあ、何てことはないさ......圭一君と魅音のことさね。詩音から話を聞きだしたんだけどね、何でも『交際の予約』ってぇのをしてるそうじゃないか......圭一君が自分に自信を持てたらその時にっていう感じで。どうなんだい、自信はまだ持ててないのかい?」
「......俺は魅音に約束しました。『いつでもどこでもどんな時でもお前の半歩前くらいには立っていられる人間になる』と。勉強の方はただの点取り屋だった頃に比べると、きちんと将来を見据えた気持ちで取り組めるようになりました。気が早いかもしれませんが、志望する大学も既に幾つか絞っています」
「そうかい......自分の進むべき道に向ってまっしぐらってとこかい......」
「はい。後はどういう経緯か分かりませんが、三郎さんが俺を気に入ってくれたようで......剣道の稽古も始めています。都会のもやしっことか言われてた頃に比べたら、それでもちょっとは強くなったかなって」
 圭一は茜の質問に遠まわしたような言葉をもって返していく。
 茜もお魎も急かすことなく、ただ静かに圭一の言葉を聞いている。
「でも、それでやっとスタートラインに立てたのかなって気がします。魅音はきっと俺には想像もつかないような大きなものを背負ってるはずです......そんな魅音の前に立つには、今の俺じゃまるで力不足と言わざるをえません......」
「ダホが......」
 悔しそうに圭一が紡いだ答えを聞いたお魎が苦々しい声を出す。
「そがぁな性根でどうすっとね......ええんね、そぉなら魅音が背負っちょるもんを教えたるわ......まぁ、今のおみゃあじゃ魅音の前から逃げ出したぁなると思うがな......茜、話してやり」
「なんだい、小難しいことはアタシ任せかい......まあいいさね。圭一君、アンタがそんな骨なしだとは思わなかったからね、園崎の背負うものを重さを教えて魅音を諦めさせてやるよ」
「え......?」
 畳かけられて戸惑う圭一に茜は事も無げに園崎の深部について話していく。
 それは今まで普通の家庭に生まれ育ってきた圭一には重過ぎる内容だった。
 頭首の証、憂慮システム、園崎式ブラフ......そして血塗られた歴史と立場。
 眩暈がするような衝撃に耐えつつ、圭一は茜の話を頭の中で噛み締めていく......魅音もいつか必ず、この暗部の中心に座する人間になるのだ。
 あの心優しい......優しすぎて傷つくこともある魅音が背負っていたものは想像以上だった。
 けれども。
「お魎さん、茜さん......その全ては、この雛見沢を守るためなんですよね......?」
 絞り出した声に目の前の老婆と妙齢の女は無言で答え、それは「その通りだ」という意思を如実に示していた。
 それが、圭一の心に何かを灯す。
「俺......今の話を聞いて、魅音のことを絶対に守ってやりたいって、そんな重いものを背負って......それでも誰にでも優しくいられる凄い子に好きになってもらって嬉しいって、誇らしいって......くそ、上手く言えねぇ......ただ......」
「ただ......なんだい?」
 茜が促すと圭一は土下座をして叫ぶように己の想いを口に出す。
「俺は、必ず魅音を幸せにする男になってみせます! 魅音だけじゃない、アイツが大切に思ってるこの雛見沢を幸せにする人間になってみせます! 諦めるなんてとんでもねぇ! あんな素敵な女の子を逃がしてたまるか! お魎さん、茜さん......今の俺は確かに骨なし野朗です。でも、必ず......」
 圭一がそこまで言った時だった。
「ぷっ......あっはははははっ! さすがに魅音が骨の髄まで惚れちまった男だねぇ......そんな気障ったらしいセリフ、中々言えたもんじゃあないよ......合格だよ、圭一君」
「え?」
「ダホが......どぉでもええ男に園崎のくらぁいとこまで話すもんかね......圭一、魅音を頼むわ......」
 圭一が顔を上げると、そこにはさも愉快そうな茜と険の取れた顔のお魎が穏やかな光を湛えた目で自分を見ていた。
「えっと......」
「アンタはもう十分に魅音を任せられる男になってるってアタシらは言ってんだよ。魅音はこの雛見沢で一番見晴らしのいいところで圭一君を待ってるはずさ......あたしがちょいと仕組んでおいたからねぇ......ほらほら、とっとと行きな!」
「は、はい! お魎さん、茜さん......ありがとうございました!」
 圭一はもう一度頭を深く下げると、弾かれたように身を翻してお魎の自室を飛びだしていってしまった。
「母さん......」
「なんぞね」
「圭一君なら......魅音を......園崎を鬼から解き放ってくれるかもしれないねぇ......」
「............そやな......あん人がワシにしてくれようとしとったことを、圭一があん子に......やな」
 お魎はボソボソと呟き、そして仏壇をふっと見やったのだった。
 
 
 雛見沢を一望できる古手神社の展望台。
 魅音はそこで圭一を待っていた。
「お母さん経由で『話がある』って......何だろう? ま、まさか告白!? やだやだ、まだ心の準備ができてないよぅ......って、先にお母さんに話を通したってことは......告白すっ飛ばしてプロポーズとか!? ダメダメ、そんなことされたら恥ずかしさで死んじゃうよぉ......」
 ぶつぶつと独り言を言いながら手袋に包まれた両手で火照った顔を覆い、くねくねと身体を少し躍らせる魅音......端から見たら少し危ない少女にしか見えない。
 と、そこに早めの調子で雪を踏みしめる音と僅かに乱れた呼吸音。
「はぁ......はぁ......魅音? 何やってんだ、新しいダンスでも覚えたのか?」
「へっ? け、圭ちゃん!? 覗き見なんてヒドイなー。男らしくないぞ」
「覗きは男の必須行動だ」
「圭ちゃんのスケベ変態」
「スケベと変態は男の......あー、もういい......お前んちから走ってきたから少し疲れた......横、いいか?」
「う、うん」
 挨拶代わりにひとしきりいつもの憎まれ口を叩き合った二人は並んで雪景色の雛見沢を眺める。
「......雪かきとか大変だけど、こうやって眺めると冬の雛見沢ってすっげー綺麗だな......」
「そうだね。雛見沢は四季折々、本当に色んな姿を見せてくれるよ......もう何年も住んでるけど、今もここからの景色に感動しちゃうことがあるんだよ」
「そっか。まるで宝物だな」
「うん、私の大切な宝物の殆どはこの村にあるんだよ......だから、ここは私の宝物そのものだね」
 一番の宝物は圭ちゃんだよ、と心の中で呟いた魅音は再び雪の雛見沢に視線を戻す。
 そうしてどれくらい二人で景色を堪能しただろうか......ふと魅音が圭一に声をかける。
「ところで、話って何さ? わざわざお母さん経由でここに呼び出して......」
「あー......そういうことか......いや、実はな......今日、茜さんとお魎さんに呼ばれたんだわ......で、話が終わったらお前をここで待たせてるって茜さんが、な」
「ふぇ? えーと......ってことは、お母さんが仕組んでたってこと? もう、相変わらず意地が悪いなぁ......それで、婆っちゃとお母さんの話って何だったのさ」
 苦笑いを浮かべて尋ねてくる魅音に圭一はすっと居住まいを正し、相手を真っ直ぐに見据える。
 魅音は茶化そうと口を開きかけるが、圭一の引き締まった表情と雰囲気に口を閉ざし、同じように圭一と真っ直ぐに向き合う。
「園崎の事について詳しく聞かされた」
 その一言で魅音の顔からさっと血の気が引き、魅音は深く俯いて肩を振るわせ出す。
「その......お前の背中のこととか、憂慮システムってーのか? そういう『園崎のやり口』も教えられたよ」
 続く圭一の言葉に魅音は小さく悲しげな声でぽつぽつと喋りだす。
「圭ちゃん......ごめん、ごめんね......黙っててごめんなさい......うん、そうだよね、こんな血の臭いに染まった家の女の子なんて......圭ちゃんとお付き合いできるわけないよね......いいよ、あの『予約』はなかったこ......ひゃっ!?」
 ぽん、と頭に暖かいものが置かれ、それはわっしわっしと自分の頭を撫で始める。
 顔を上げれば、そこにあったのは優しい笑顔の宝物。
「バーカ、この前原圭一様を見くびるんじゃねーよ......つーかな、お魎さんと茜さんの話を聞いて......お前の事を何があっても守ってやりてえ、幸せにしてやりてえって......えい、くそ!」
 圭一はそこでばっと魅音から離れ、胸を張って雛見沢に向き直る。
「前原圭一は魅音みてーな素敵な女の子に選ばれてすっげー嬉しいぞー! だから、俺は絶対に魅音を逃がさねぇっ! 俺は絶対に魅音を幸せにする! 魅音だけじゃねぇ、魅音が大切に思ってる人をみーんな幸せにしてやるぜ!」
 突然の雄たけびに魅音は呆気に取られていたが、やがてぷっと吹き出してしまう。
「圭ちゃん、私が大切に思ってる人ってさー、雛見沢2000人だよー? みーんな幸せにって、そりゃあ欲張りすぎってもんじゃないのかねぇ......うん、でも......圭ちゃんのその欲張り、すごく素敵だな......嬉しいな......」
 可笑しそうに紡ぎだした言葉はやがて嬉しそうなささやきに変わる。
「欲張りでも何でも構わねーよ。俺の嘘偽りない本心だからな! どーした、魅音。お前の返事はまだか?」
 顔を真っ赤に染めた圭一は魅音の方を向かないままだ。
 けれども、魅音は感じていた......圭一の心が真っ直ぐすぎるくらいに自分を見つめ、そして包み込もうとしていることを。
 だから、魅音も真っ赤な顔で圭一の方を向かず、心を精一杯圭一へ向けて雛見沢を見つめて口を開く。
「園崎魅音は前原圭一に選ばれてすごく幸せだー! 私も圭ちゃんと圭ちゃんが大切に思ってる人をみーんな幸せにするぞー! だから、圭ちゃん......ずーっと一緒に頑張ろうね!」
「おう! 任せとけ!」
 間髪入れない圭一の答えに魅音はまたも吹き出し......やがて圭一と魅音は二人で大笑いする。
「へっ......お前だって十分に欲張りじゃねーか。俺が大切にしてんのはお前が大切にしてるものと一緒だぜ?」
「あはは......欲張り同士、やっぱり気が合うねぇ」
「そうだな......だから、ずっと一緒に頑張れるって思えるんだろうなぁ......うん、宜しくな......魅音」
「こちらこそ宜しくね、圭ちゃん」
 雪の雛見沢はただ穏やかに若い二人の誓いを聞き届け、雲の切れ間からようやく差し出した陽光に宝物のように輝いていた。

1: 羽入 URL 2009年02月21日(土) 午後10時09分

あっっっっーーきゃーーーーうはーーーー
は、鼻血が………鼻血…が…

2: 悟史 URL 2009年03月18日(水) 午前10時52分

羽入さんに激しく同意です!
うああ、可愛いwwこの二人大好きです^^


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