▼ 2009/01/31(土) 『ひぐらしのなく頃に 月愛し編』
『ひぐらしのなく頃に 月愛し編』
俺がその記事を見たのは偶然だった。たまたま居間でくつろいでいたらテーブルの上に親父かお袋の読んでいる週刊誌が目に留まったので読んでみた。
そしてパラパラとページをめくり続けているうちに俺はあるタイトルが目に入り、次のページをめくろうとしていた手を止める。
「何々……、女の子が自分の事を好きかどうか確める方法?」
半ば、いやかなり胡散臭い気がしたが今まで彼女が出来た事のない俺はその内容に強い興味をもってしまい続きを読む。
その1 『女の子にいつもと違う雰囲気で会ってみる』
「貴方は普段しない恰好で女の子と出会った時に反応を確かめてみよう、ずっと見続けていたらその子は君を好んでいる可能性があるってほんとかよ……」
やはり胡散臭く感じる。そんな事で本気で分かるのかよと胸の中で呟く。
しかし内容の続きが気になったままなので俺は胡散臭い気持ちを抑えて続きを読む。
その2 『好きな食べ物を教える』
「好きな食べ物を教えた後、その通り、または似た食べ物を持ってきたり持ってくると言ってきたら貴方を好んでいる可能性があるってまさか……」
確かに分かりやすいがそんなあからさまな事に引っ掛かる女の子はいないだろ……。そう苦笑しつつ俺は次に目を向けた。
その3 『女の子を褒めてみる』
「好きな男の子に褒められた女の子は必要以上に慌てたり、顔を赤くしてしまったりするのでその傾向が見られたら貴方に好意を抱いてる可能性があるってそういうものなのか……」
主な方法はそこで終わり、最後に好きな事をお互いが確認したら貴方はその女の子に月下で会おうと言うと良いと書いてあったが意味がよく分からなかったので俺は雑誌を閉じる。そして座っているソファーにもたれて天井を見つめる。
「んな分かりやすく好意を持っている女の子を見分けれるんなら苦労しねーよ……」
結局胡散臭い気持ちが勝ってしまった俺はそうぼやき、雑誌の内容を振り払うかのようにテレビを付けた。しかししばらくテレビを見ていても番組内容は全く頭に入ってこない。
(だけど……試してみるのも面白いか……)
俺の頭の中は雑誌の内容の事でいっぱいだった。
「おはよう~~」
「あ、おはよう圭一く……」
翌日、いつも通り学校に行くため待ち合わせ場所にいたレナに挨拶を送る。そして俺の存在に気付いたレナが挨拶を返そうとしたが突然固まってしまった。
その理由が俺の姿だろう。服装は学生服なので変わりないが、今日はいつもと違う部分がある。
「どうしたレナ?」
「はっ!? え、えっと圭一君どうしたのかな、今日は眼鏡をかけてるんだよ、だよ」
そう、俺は昔勉強するのに使っていた眼鏡をしてきたのだ。その理由を裏付ける為に手にはお袋から借りた小説を持っている。
「ああ、家で小説とか読む時しかしないけどな、変か?」
俺の問いにレナは少し頬を染めながら首を横に振った。
「う、ううん、いつもと違う雰囲気だからちょっとびっくりしちゃって……」
そう言ってレナは俺の隣に移り、一緒に魅音との待ち合わせ場所へ歩き出す。
(結局あの内容通りにやってみたが……、レナは好意でなのか物珍しさで見てくるのか分からんな……)
途中レナはちらりちらりと俺を見てきているのに気付くがそれがどういう意味で見ているかは分からない。好意なのか物珍しさからか。
しかしどっちにしろこうもちらちら見られてると自分のやっている事に恥ずかしさが込み上げてくる。いまさらだが……。
とその時、前方に水車小屋と側で立っている魅音の姿が見えた。
「おっ、やっときたね、おはよう、レナに圭……ちゃ……」
魅音も俺の姿を見るなり固まってしまった。そればかりかレナ以上に頬を赤く染めた気がする。
だが次の瞬間。
「あ、あれ~~、圭ちゃん眼鏡なんてかけてどうしたの? もしかしてイメージチェンジってやつ~~」
ニヤニヤ笑いながら魅音が指摘してくる。
「んだよ、別にいいだろ、ただの気分転換だよ」
そう言って俺は魅音を置いてくように前へ歩き出す。
(やっぱり魅音は変わらんな)
そう心で思いつつ、持っている小説に目を向けた。レナと魅音は後ろから何か言いながら俺の左右にそれぞれ追い付くと、二人は速度を合わせて俺と一緒に歩いていく。
「しかし圭ちゃんが眼鏡をかけると結構頭いい人って感じがするねえ」
「それは普段の俺が頭悪いって言いたいのか……?」
「そりゃあ昨日はネコミミメイド服で監督とあんな恥ずかしいダンスを踊ってた姿を見ればね……」
(あれはお前がやらせたんだろうが!? ていうかダンスじゃなくてただ必死に逃げてただけだ!?)
俺は心で怒鳴りながらある事を確信する。それは魅音が俺に対して男の子と女の子でいう好きという感情は持っていないと言う事だ。
俺は昨日の醜態を嘲笑いながら話してくる魅音を無視しながら、小説『あなたが好きで好きでたまらない』を見続けってどんな小説渡してきやがるんだお袋!?
(ふむふむ、好きな気持ちはこのうえなく恥ずかしい気持ち、だから私は貴方に素直になれない……)
「圭一君、学校着いたよ」
「へっ、あ……」
気がつくと俺は本気で小説を読んでいた。目の前には分校の入口が見えている。
(ふぅ、結局あの記事通りにやってみてもレナはともかく、案の定というか魅音は対して変わらんかったな)
俺は小説を閉じ、ちらっと魅音の方を見る。
「…………ぽ~」
「へっ……?」
そこには物凄くとろ~んとした目をし、さらに熱い視線を俺に浴びせている魅音がいた。
「み……、魅音?」
「…………はっ!? あ、あわわわ……、レ、レナ!? 早くしないと学校に遅れ……」
「み、魅ぃちゃん前!?」
「ぶへっ!?」
突然パニックを起こした魅音は分校の入口横にある壁に顔から突っ込み、ドンッと鈍い音をあげてぶち当たる。
「み、魅ぃちゃ~~ん!?」
分校の壁に大の字でぶつかった跡をくっきり残して倒れてきた魅音を慌てて介抱するレナ。
「お、おい魅音大丈夫か!?」
唖然としていた俺もはっとし、駆け寄ろうとする。しかし……。
「もう圭一君をずっと見てるからだよ魅ぃちゃん……」
「へっ?」
小声だったがレナの口から出た言葉がしっかり俺の耳に入った。そして俺の足が歩みを止める。
(見てたって俺を? 魅音がずっと……?)
俺はきゅう~~と目をぐるぐる回しながら倒れている魅音を見ながらあの内容を思い出す。
『ずっと見続けていたらその子は君を好んでいる可能性がある』
「ま、まさかな……」
そう俺が呟いた直後、魅音は分校から出て来た知恵先生とレナに支えられ、保健室へと連れていかれた。
「はぁ~~、朝は最悪だった……」
時刻は昼。鼻の上に絆創膏をペタッと付けた魅音が嘆きの声を上げながら弁当を食べる。
その隣ではレナが一生懸命魅音を慰めていた。ちなみに俺はもう眼鏡を閉まっている。
何か分からないが責任を感じた為だ。
「ですが魅音さんが周りを見ていないなんて珍しいですわね」
「よそ見でもしていたのですか魅ぃ?」
「あ、その……、ち、ちょっとね、面白い雲があったからつい夢中になって見てたんだよ、あはははは!!」
豪快に笑いつつ魅音は並んでいる弁当箱に箸を伸ばす。おそらくレナのコロッケ辺りが狙いだな。
「すきありっ!」
「なっ、俺のから揚げ!?」
伸ばしてきた瞬間、魅音は突然箸の速度を上げ、俺の弁当箱から沙都子と梨花ちゃんに取られて残り一つになっていたから揚げを奪い取る。
「圭ちゃん、油断大敵だよ」
ニヤニヤ笑いながら魅音は奪ったから揚げを口に運ぶ。
「ぬぅ~~、だったら俺だって負けてられるか!」
魅音の挑発をあっさり受けた俺は箸を振り上げて獲物となるおかずを探そうとする。だがその時、昨日の記事の内容と今日すべき事が頭を思い起こした。
(そうだ……、今日は皆の俺に対する好感度を調べてたんだ、なら挑発にのってる場合じゃないな、えっと二番目は確か好きな食べ物を教えるだったけ……)
俺は全員分の弁当箱を見回し、中身を確認する。
(う~~ん、どれも美味そうだし、特にこれといって好きな物は……)
俺が箸を振り上げたまま止まっている事に全員がキョトンとしている。
(う~~ん……どれも食べたことあるやつばかりだし、いまさら好物なんて言えねえしな……)
「富田、今日の弁当のそれなに?」
「これは僕の家の特製カツだよ、豚肉にチーズが挟んであるんだ」
(ん? 富田君の弁当は豚肉にチーズ? 何か美味そうだな……よし!)
即座に一計を案じた俺は弁当箱を持って立ち上がり、富田君の側へ行く。
「ん、何ですか前原さん?」
「富田君、そのカツと俺の弁当のおかず全てと交換しないか」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
富田君を含め、魅音達からも驚きの声が上がる。
「どうだね富田君、この条件は決して悪くないはずだが」
「え……? で、ですが何で突然……?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた富田君、そう実は俺は……その豚肉とチーズの組み合わせが大好物なのだ!!」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
再び驚きの声が上がる。今度は教室中から。
しかし俺の熱弁は止まらない。久々に口先の魔術士の力を見せてやるぜ。
「あのジューシーでとろけるような豚肉の旨味にチーズの濃厚な風味と食感が組み合わさった一品は俺が今までの生きていた人生の中でもっとも脳と舌に衝撃を与えるものだった!! しかし不幸な事に俺はその絶大な美味さを誇る料理を長年口にする事が出来ずに嘆いていたんだ、そこへ君がそのカツを持って現れた、君こそまさに俺の救世主!! もしそのカツを交換してくれるならば弁当のおかずだけでなく勉強であろうと家の家事だろうと畑仕事であろうと手伝う!! 富田君、どうかこの俺の熱意を無下にしないでくれ!!」
深々とお辞儀しながら言い終えた瞬間、シーンと教室が静まり返る。
「あ、あの……前原さん、カツぐらいなら差し上げますよ……、まだ家にもたくさんありますから……」
「ありがとう!!」
俺はそれだけ叫ぶとすぐさまカツを富田君の弁当箱から自分の弁当箱に移し替え、自分の席についた。そして頬張る。
(う、美味い!! 初めて食べたが美味い!! 正直よかった、料理が変な味じゃなくて……そして富田君が無茶苦茶な注文を言わない寛大な子でホントによかった!!)
俺は感極まり涙を流した。
「け、圭ちゃん……、そんなにチーズと豚肉の組み合わせが好きなの……?」
「ほうよ!!」
「泣いてるうえに頬張りながら返事をしないで下さいまし……」
「でも圭一の大好物が判明したのです」
「そ、そうだね、そんなに好きなら今度レナが作ってきてあげるよ圭一君」
「ホントか!? ありがとなレナ」
作ってくれるという事はやっぱりレナは俺に好感を持っているのかもしれないな。だけど好意があるにしろないにしろ、作ってきてくれるのは嬉しい。
「!? あ、あのさ圭ちゃん!? 私ん家にもちょうどチーズと豚肉が余ってたから作ってきてあげるよ!?」
「お、おう、頼む……」
魅音がレナの言い終わった後に凄く慌てながら言ってくる。
(分からん……、魅音は余っているから作ってくると言っているから好感を持っているわけじゃないのか……)
そして魅音の後に沙都子や梨花ちゃん、羽入も作ってくると言い、結局この方法で皆が好感を持っているかどうか見分けられなかった。でも発想を変えれば皆俺に好感を持っているとも考えれるが……、んなわけないか。
部活の時間になった。今日はゾンビ鬼をする事になったので全員校庭にいる。
ちなみに鬼は梨花ちゃんだ。そしてその梨花ちゃんは現在俺の真後ろにいる。
「くそっ!? まさかこんなにも早く見つかるとは!?」
「みぃ~、圭一待つのです!」
けっこう本気で走るが中々梨花ちゃんを引き離せない。これがナ○ュラル(都会人)とコー○ィネーター(雛見沢人)の力の差か。
「ストップなのです圭一!」
「うわっ、羽入!?」
突然羽入が横から飛び出し、俺の前に立ち塞がる。状況から考えて梨花ちゃんの仲間である事は間違いない。
「ちぃ、だったらこっちだ!」
俺は分校の裏側に向けて走り出した。向きを変えられて驚いた羽入が梨花ちゃんと一緒に追いかけてくる。
「馬鹿!? 圭一が来る前に飛び出してどうするのよ!」
「あぅ~~……、ごめんなさいなのです梨花」
「もう、とにかく協力して圭一を……っ!?」
「あうっ!? 圭一がいないのです!?」
梨花ちゃんと羽入はそのまま俺を探しに二手に別れて通り過ぎて行った。俺は二人がお互いを見ながら話をしている瞬間を見逃さず、咄嗟に分校の影で道からは死角になっている場所に隠れたのだ。
「ふ~~、あぶねえあぶねえ……」
モミッ。
「あふっ……」
「へっ?」
突然変な声がしてきた。それに建物の壁を触っている筈なのに何だか弾力があってフニフニの説明しがたい柔らかな大きな物を握っている。
俺は壁の方へ振り返った。
「うぅ……」
「あっ……」
後ろには背を壁にくっつけた状態でおそらく俺より先に隠れていたであろう魅音の姿があった。だがその顔は熟したトマトより真っ赤になり、口からは熱い吐息と震えた声が漏れ、その年齢の割に同年代を圧倒する二つのクッションの片方をしっかり俺に握られている。
ミーンミーンミーン!!
蝉達の大合唱がはっきり聞こえてくる。こんなに蝉が鳴いていたんだ。
ミーンミーンミーン!!
あ~~、蝉の声聞いてると夏だって実感するなあってんな場合か!?
現実から逃れようとしていた頭に喝を入れて現実に戻す。
(しかしどうすればいいんだ!? このままでは確実に変態の烙印を押されてしまう!? まずいまずいまずいまずい……ここはここはここはここは……そ、そうだ!! 最後の喜ぶ方法、褒める!!)
俺は魅音に現時点で言える最高の褒め言葉を送った。
「魅音、お前の胸ってホントに柔らか……」
「馬鹿ああぁぁーーーー!!??」
バチーンと言う豪快な衝撃音がしたと同時に俺の首がゴキッと鈍い音をだして体が浮かび上がり、空中で回転しながらだんだんはっきりと痛みが頬と心に出てくるのを覚えながら奥にあった茂みの中へ飲み込まれていった。
へんたーい、へんたーい、へんたーい。
「や、やめてくれーー!?」
圭一君は変態だね、圭一さんは変態ですわね、圭一は変態なのです、圭一は間違いない変態なのです。
「ち、違うんだ!? 誤解だ!? あれは事故なんだ!?」
「圭ちゃん……」
「み、魅音!? あ、あのな、あれは……」
「酷いよ圭ちゃん……」
「えっ……!?」
「ずっと……だったのに……」
「えっ?」
「圭ちゃんの変態ーー!!」
「み、魅音!? 待ってくれ、待ってくれーー!?」
へんたーい、へんたーい、圭一はへ・ん・た・い。
「う、うわああぁぁああぁぁ!?」
「うわああぁぁ!?」
ガバッと起き上がった俺は昨日の監督と繰り広げた生きるか死ぬかの逃走劇を終えた後のようにぜえぜえと荒い呼吸をした。
「い……嫌な夢だった……」
そう呟き、俺は体に被っていた白いシーツを顔に当てる。そこで初めて顔が汗でベタベタだった事に気付いた。
「あ……、そういえばここは?」
シーツのひんやりした感触で頭の熱が冷め、大分落ち着いた俺は自分の居場所を確認しようとする。
「保健室だよ圭ちゃん」
「へっ?」
横から突然聞き覚えのある声がし、振り返る。そこには体操着から制服に着替え終わった魅音が座っていた。
鼻の上に貼ってあった絆創膏もいつの間にかとれている。
「み、魅おっ!? うわっ!?」
俺は魅音の存在に気付くなり反対側の床に驚いた拍子でベットから落ちてしまう。
「だ、大丈夫圭ちゃん!?」
「あたたた……」
打った頭を押さえ、魅音に助け起こされた俺はベットに腰掛ける。
「全く……、圭ちゃんはホント落ち着きがないんだから」
眉を八の字にし、やれやれと言う感じで魅音は腕を組みながら呆れたように言ってくる。
「うぅ、すまん……、って魅音!? さ、さっきは本当に悪かった!?」
「へっ? あ、ああ……、あれは別にいいよ圭ちゃん、確かにびっくりしたけど私もおもいっきりビンタしちゃったし……」
あれが魅音の本気ビンタ……。人の体を軽々と一回転、いや二回転させながら吹っ飛ばす威力があるのか……。
ていうかまだ頬がひりひりする……。
「だ、だけどあれは本当に悪かった、本当にすまない……」
「もう圭ちゃん、私はいいって言ってるんだからこれでおしまいだよ、それとも圭ちゃんのあれは故意にやったていうのかな……?」
「ち、違う!? 断じて違う!? あれは完全な事故なんだ!?」
「別におじさんは故意にやったとしてもいいんだよ、まあその時は圭ちゃんがさっきまで見てた夢の状態になるだけだけど」
魅音が言い終わった瞬間、再び変態の二文字が脳内を飛び回る。
「本当にごめんなさい……」
俺は深々と頭を下げた。
「もう夜だったのか…」
制服に着替え、分校の外に出た俺は夜空に浮かぶ月を見て唖然とする。どうやらかなりの時間寝てた(気絶してた)らしい。
「ほら圭ちゃん、早く帰らないと怒られるよ」
「あ、ああ……」
後ろから出て来た魅音が俺を急かすように言ってくると自身は俺を置いて前に歩き出す。その時俺はある事に気付いた。
なんで魅音はこんな時間まで俺を待っていてくれたんだと。
「なあ魅音……」
「ん、なに圭ちゃん?」
星空の下、魅音がくるりと振り返る。月光が揺れる翠髪を神秘的に輝かし、その美しさに俺の胸が大きくドクンと跳ねる。
(なんだ……この感じ? 鼓動がどんどん大きくなる……)
俺はかつて感じた事のない何かを感じていた。魅音に対して何かを……。
「圭ちゃん、呼んだのに無視すんの」
「えっ!? あ……、その……」
何故かいつも通りの話し方が出来なくなっていた。一体なんで……。
答えの出ない俺の頭は突然今日一日の出来事を振り返らせる。
眼鏡をかけた俺を見て固まった魅音。
分校に着くまで俺を見ていた魅音。
レナに負けじと弁当を作ってくると言ってきた魅音。
事故とはいえ、胸を触った俺を夜になるまで看病してくれた魅音。
他にも今日までに俺に対して必要以上にいろいろな表情、仕種、行動をしてきた魅音。
それは親友だからやる事なのか。仲間だからやる事なのか。
それとも……好きな人だからやる事なのか。
『好きな気持ちはこのうえなく恥ずかしい気持ち、だから私は貴方に素直になれない……』
朝に読んだ小説の一文。今ならその意味が分かる。
だって……今の俺がそうなのだから。
「圭ちゃん?」
ならどうすればいい? 魅音の気持ちに気付き、自分の気持ちに気付いた俺はどうすればいいのか。そう悩んだ時、あの雑誌の内容が思い起こされる。
最後の内容を。
『好きな事を貴方が知り、自分の意思を確認したなら貴方はその女の子に対し、月下で会おうと言うと良い』
(月下……、今はもう月下だよな、それにもう会っているし……、また会うなんておかしいし、一体どういう……ん? まてよ……こうしたら……あっ!?)
「圭ちゃん!」
「うわっ!?」
「もう何ぼーっとしてんのさ、早く帰らないと本当に怒られるよ」
頬を膨らまし、苦言を言ってくる魅音。そんな魅音に対し、俺はある決心をした。
今まで魅音の気持ちに気付けなかったお詫びと言うわけではないが、俺は自分の抑えられない想いを恥を捨てて叫んだ。
「み、魅音!!」
「な、なに? いきなり大声出して……?」
「お、俺は……俺はお前と月下で会いたい!!」
叫び終わった俺は走り出した。無我夢中で。
「け、圭ちゃん!? 何言ってるの!?」
後ろで叫ぶ魅音の声に答えず俺はただその場から走り去る。もうその場にいるだけで心臓が爆発しそうだった。
「なんなのさ~……、月下で会うってもう会ってるじゃん、それになんで月の下で会わなきゃって……ん? 月の下で会う……月…会う……月会う……付き合う……っ!? ちょっ、ちょっと圭ちゃん!?」
言葉の真意に気付いた魅音も走り出す。全速力で。
「だーーっ!? なんで追い掛けて来るんだよ魅音!?」
「あ、あんな状況で一人にしないでよ!? ていうかさっきの言葉の意味って!?」
「そ、そのまんまの意味だよ!? 俺はお前が好きになっちまったんだからな!?」
「ちょっと!? なんで走りながら告白してるのさ!?」
「恥ずかしいからだ!!」
「圭ちゃんのヘタレ!!」
「ヘタレで結構!!」
「なっ!? じゃ……じゃあ私もヘタレになる!! 私だって圭ちゃんが好き!! 大好き!! 私こそ月下で会って下さい!!」
「う、うわああぁぁ!?」
俺達は走り続けた。お互いの想いを叫び、恥をばらまき、喜びに湧きながら月光に照らされている雛見沢の道を。
ただひたすら……。翌日俺達の叫びを聞いた村人達による凄まじい恥辱の惨劇が待っているとも知らずに……。
『完』
- TB-URL(確認後に公開) http://dtany.net/happy_mion01/070/tb/