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魅音幸せプロジェクトまとめ

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2009年1月の日記

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2009/01/31(土) 『ひぐらしのなく頃に 月愛し編』

はてブ情報 はてブに登録 はてブ数 2009/01/31 19:40 SS部門蜀天

『ひぐらしのなく頃に 月愛し編』


俺がその記事を見たのは偶然だった。たまたま居間でくつろいでいたらテーブルの上に親父かお袋の読んでいる週刊誌が目に留まったので読んでみた。
そしてパラパラとページをめくり続けているうちに俺はあるタイトルが目に入り、次のページをめくろうとしていた手を止める。
「何々……、女の子が自分の事を好きかどうか確める方法?」
半ば、いやかなり胡散臭い気がしたが今まで彼女が出来た事のない俺はその内容に強い興味をもってしまい続きを読む。

その1 『女の子にいつもと違う雰囲気で会ってみる』

「貴方は普段しない恰好で女の子と出会った時に反応を確かめてみよう、ずっと見続けていたらその子は君を好んでいる可能性があるってほんとかよ……」
やはり胡散臭く感じる。そんな事で本気で分かるのかよと胸の中で呟く。
しかし内容の続きが気になったままなので俺は胡散臭い気持ちを抑えて続きを読む。

その2 『好きな食べ物を教える』

「好きな食べ物を教えた後、その通り、または似た食べ物を持ってきたり持ってくると言ってきたら貴方を好んでいる可能性があるってまさか……」
確かに分かりやすいがそんなあからさまな事に引っ掛かる女の子はいないだろ……。そう苦笑しつつ俺は次に目を向けた。

その3 『女の子を褒めてみる』

「好きな男の子に褒められた女の子は必要以上に慌てたり、顔を赤くしてしまったりするのでその傾向が見られたら貴方に好意を抱いてる可能性があるってそういうものなのか……」

主な方法はそこで終わり、最後に好きな事をお互いが確認したら貴方はその女の子に月下で会おうと言うと良いと書いてあったが意味がよく分からなかったので俺は雑誌を閉じる。そして座っているソファーにもたれて天井を見つめる。
「んな分かりやすく好意を持っている女の子を見分けれるんなら苦労しねーよ……」
結局胡散臭い気持ちが勝ってしまった俺はそうぼやき、雑誌の内容を振り払うかのようにテレビを付けた。しかししばらくテレビを見ていても番組内容は全く頭に入ってこない。
(だけど……試してみるのも面白いか……)
俺の頭の中は雑誌の内容の事でいっぱいだった。


「おはよう~~」
「あ、おはよう圭一く……」
翌日、いつも通り学校に行くため待ち合わせ場所にいたレナに挨拶を送る。そして俺の存在に気付いたレナが挨拶を返そうとしたが突然固まってしまった。
その理由が俺の姿だろう。服装は学生服なので変わりないが、今日はいつもと違う部分がある。
「どうしたレナ?」
「はっ!? え、えっと圭一君どうしたのかな、今日は眼鏡をかけてるんだよ、だよ」
そう、俺は昔勉強するのに使っていた眼鏡をしてきたのだ。その理由を裏付ける為に手にはお袋から借りた小説を持っている。
「ああ、家で小説とか読む時しかしないけどな、変か?」
俺の問いにレナは少し頬を染めながら首を横に振った。
「う、ううん、いつもと違う雰囲気だからちょっとびっくりしちゃって……」
そう言ってレナは俺の隣に移り、一緒に魅音との待ち合わせ場所へ歩き出す。
(結局あの内容通りにやってみたが……、レナは好意でなのか物珍しさで見てくるのか分からんな……)
途中レナはちらりちらりと俺を見てきているのに気付くがそれがどういう意味で見ているかは分からない。好意なのか物珍しさからか。
しかしどっちにしろこうもちらちら見られてると自分のやっている事に恥ずかしさが込み上げてくる。いまさらだが……。
とその時、前方に水車小屋と側で立っている魅音の姿が見えた。
「おっ、やっときたね、おはよう、レナに圭……ちゃ……」
魅音も俺の姿を見るなり固まってしまった。そればかりかレナ以上に頬を赤く染めた気がする。
だが次の瞬間。
「あ、あれ~~、圭ちゃん眼鏡なんてかけてどうしたの? もしかしてイメージチェンジってやつ~~」
ニヤニヤ笑いながら魅音が指摘してくる。
「んだよ、別にいいだろ、ただの気分転換だよ」
そう言って俺は魅音を置いてくように前へ歩き出す。
(やっぱり魅音は変わらんな)
そう心で思いつつ、持っている小説に目を向けた。レナと魅音は後ろから何か言いながら俺の左右にそれぞれ追い付くと、二人は速度を合わせて俺と一緒に歩いていく。
「しかし圭ちゃんが眼鏡をかけると結構頭いい人って感じがするねえ」
「それは普段の俺が頭悪いって言いたいのか……?」
「そりゃあ昨日はネコミミメイド服で監督とあんな恥ずかしいダンスを踊ってた姿を見ればね……」
(あれはお前がやらせたんだろうが!? ていうかダンスじゃなくてただ必死に逃げてただけだ!?)
俺は心で怒鳴りながらある事を確信する。それは魅音が俺に対して男の子と女の子でいう好きという感情は持っていないと言う事だ。
俺は昨日の醜態を嘲笑いながら話してくる魅音を無視しながら、小説『あなたが好きで好きでたまらない』を見続けってどんな小説渡してきやがるんだお袋!?


(ふむふむ、好きな気持ちはこのうえなく恥ずかしい気持ち、だから私は貴方に素直になれない……)
「圭一君、学校着いたよ」
「へっ、あ……」
気がつくと俺は本気で小説を読んでいた。目の前には分校の入口が見えている。
(ふぅ、結局あの記事通りにやってみてもレナはともかく、案の定というか魅音は対して変わらんかったな)
俺は小説を閉じ、ちらっと魅音の方を見る。
「…………ぽ~」
「へっ……?」
そこには物凄くとろ~んとした目をし、さらに熱い視線を俺に浴びせている魅音がいた。
「み……、魅音?」
「…………はっ!? あ、あわわわ……、レ、レナ!? 早くしないと学校に遅れ……」
「み、魅ぃちゃん前!?」
「ぶへっ!?」
突然パニックを起こした魅音は分校の入口横にある壁に顔から突っ込み、ドンッと鈍い音をあげてぶち当たる。
「み、魅ぃちゃ~~ん!?」
分校の壁に大の字でぶつかった跡をくっきり残して倒れてきた魅音を慌てて介抱するレナ。
「お、おい魅音大丈夫か!?」
唖然としていた俺もはっとし、駆け寄ろうとする。しかし……。
「もう圭一君をずっと見てるからだよ魅ぃちゃん……」
「へっ?」
小声だったがレナの口から出た言葉がしっかり俺の耳に入った。そして俺の足が歩みを止める。
(見てたって俺を? 魅音がずっと……?)
俺はきゅう~~と目をぐるぐる回しながら倒れている魅音を見ながらあの内容を思い出す。

『ずっと見続けていたらその子は君を好んでいる可能性がある』

「ま、まさかな……」
そう俺が呟いた直後、魅音は分校から出て来た知恵先生とレナに支えられ、保健室へと連れていかれた。


「はぁ~~、朝は最悪だった……」
時刻は昼。鼻の上に絆創膏をペタッと付けた魅音が嘆きの声を上げながら弁当を食べる。
その隣ではレナが一生懸命魅音を慰めていた。ちなみに俺はもう眼鏡を閉まっている。
何か分からないが責任を感じた為だ。
「ですが魅音さんが周りを見ていないなんて珍しいですわね」
「よそ見でもしていたのですか魅ぃ?」
「あ、その……、ち、ちょっとね、面白い雲があったからつい夢中になって見てたんだよ、あはははは!!」
豪快に笑いつつ魅音は並んでいる弁当箱に箸を伸ばす。おそらくレナのコロッケ辺りが狙いだな。
「すきありっ!」
「なっ、俺のから揚げ!?」
伸ばしてきた瞬間、魅音は突然箸の速度を上げ、俺の弁当箱から沙都子と梨花ちゃんに取られて残り一つになっていたから揚げを奪い取る。
「圭ちゃん、油断大敵だよ」
ニヤニヤ笑いながら魅音は奪ったから揚げを口に運ぶ。
「ぬぅ~~、だったら俺だって負けてられるか!」
魅音の挑発をあっさり受けた俺は箸を振り上げて獲物となるおかずを探そうとする。だがその時、昨日の記事の内容と今日すべき事が頭を思い起こした。
(そうだ……、今日は皆の俺に対する好感度を調べてたんだ、なら挑発にのってる場合じゃないな、えっと二番目は確か好きな食べ物を教えるだったけ……)
俺は全員分の弁当箱を見回し、中身を確認する。
(う~~ん、どれも美味そうだし、特にこれといって好きな物は……)
俺が箸を振り上げたまま止まっている事に全員がキョトンとしている。
(う~~ん……どれも食べたことあるやつばかりだし、いまさら好物なんて言えねえしな……)
「富田、今日の弁当のそれなに?」
「これは僕の家の特製カツだよ、豚肉にチーズが挟んであるんだ」
(ん? 富田君の弁当は豚肉にチーズ? 何か美味そうだな……よし!)
即座に一計を案じた俺は弁当箱を持って立ち上がり、富田君の側へ行く。
「ん、何ですか前原さん?」
「富田君、そのカツと俺の弁当のおかず全てと交換しないか」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
富田君を含め、魅音達からも驚きの声が上がる。
「どうだね富田君、この条件は決して悪くないはずだが」
「え……? で、ですが何で突然……?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた富田君、そう実は俺は……その豚肉とチーズの組み合わせが大好物なのだ!!」
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
再び驚きの声が上がる。今度は教室中から。
しかし俺の熱弁は止まらない。久々に口先の魔術士の力を見せてやるぜ。
「あのジューシーでとろけるような豚肉の旨味にチーズの濃厚な風味と食感が組み合わさった一品は俺が今までの生きていた人生の中でもっとも脳と舌に衝撃を与えるものだった!! しかし不幸な事に俺はその絶大な美味さを誇る料理を長年口にする事が出来ずに嘆いていたんだ、そこへ君がそのカツを持って現れた、君こそまさに俺の救世主!! もしそのカツを交換してくれるならば弁当のおかずだけでなく勉強であろうと家の家事だろうと畑仕事であろうと手伝う!! 富田君、どうかこの俺の熱意を無下にしないでくれ!!」
深々とお辞儀しながら言い終えた瞬間、シーンと教室が静まり返る。
「あ、あの……前原さん、カツぐらいなら差し上げますよ……、まだ家にもたくさんありますから……」
「ありがとう!!」
俺はそれだけ叫ぶとすぐさまカツを富田君の弁当箱から自分の弁当箱に移し替え、自分の席についた。そして頬張る。
(う、美味い!! 初めて食べたが美味い!! 正直よかった、料理が変な味じゃなくて……そして富田君が無茶苦茶な注文を言わない寛大な子でホントによかった!!)
俺は感極まり涙を流した。
「け、圭ちゃん……、そんなにチーズと豚肉の組み合わせが好きなの……?」
「ほうよ!!」
「泣いてるうえに頬張りながら返事をしないで下さいまし……」
「でも圭一の大好物が判明したのです」
「そ、そうだね、そんなに好きなら今度レナが作ってきてあげるよ圭一君」
「ホントか!? ありがとなレナ」
作ってくれるという事はやっぱりレナは俺に好感を持っているのかもしれないな。だけど好意があるにしろないにしろ、作ってきてくれるのは嬉しい。
「!? あ、あのさ圭ちゃん!? 私ん家にもちょうどチーズと豚肉が余ってたから作ってきてあげるよ!?」
「お、おう、頼む……」
魅音がレナの言い終わった後に凄く慌てながら言ってくる。
(分からん……、魅音は余っているから作ってくると言っているから好感を持っているわけじゃないのか……)
そして魅音の後に沙都子や梨花ちゃん、羽入も作ってくると言い、結局この方法で皆が好感を持っているかどうか見分けられなかった。でも発想を変えれば皆俺に好感を持っているとも考えれるが……、んなわけないか。


部活の時間になった。今日はゾンビ鬼をする事になったので全員校庭にいる。
ちなみに鬼は梨花ちゃんだ。そしてその梨花ちゃんは現在俺の真後ろにいる。
「くそっ!? まさかこんなにも早く見つかるとは!?」
「みぃ~、圭一待つのです!」
けっこう本気で走るが中々梨花ちゃんを引き離せない。これがナ○ュラル(都会人)とコー○ィネーター(雛見沢人)の力の差か。
「ストップなのです圭一!」
「うわっ、羽入!?」
突然羽入が横から飛び出し、俺の前に立ち塞がる。状況から考えて梨花ちゃんの仲間である事は間違いない。
「ちぃ、だったらこっちだ!」
俺は分校の裏側に向けて走り出した。向きを変えられて驚いた羽入が梨花ちゃんと一緒に追いかけてくる。
「馬鹿!? 圭一が来る前に飛び出してどうするのよ!」
「あぅ~~……、ごめんなさいなのです梨花」
「もう、とにかく協力して圭一を……っ!?」
「あうっ!? 圭一がいないのです!?」
梨花ちゃんと羽入はそのまま俺を探しに二手に別れて通り過ぎて行った。俺は二人がお互いを見ながら話をしている瞬間を見逃さず、咄嗟に分校の影で道からは死角になっている場所に隠れたのだ。
「ふ~~、あぶねえあぶねえ……」

モミッ。

「あふっ……」
「へっ?」
突然変な声がしてきた。それに建物の壁を触っている筈なのに何だか弾力があってフニフニの説明しがたい柔らかな大きな物を握っている。
俺は壁の方へ振り返った。
「うぅ……」
「あっ……」
後ろには背を壁にくっつけた状態でおそらく俺より先に隠れていたであろう魅音の姿があった。だがその顔は熟したトマトより真っ赤になり、口からは熱い吐息と震えた声が漏れ、その年齢の割に同年代を圧倒する二つのクッションの片方をしっかり俺に握られている。

ミーンミーンミーン!!

蝉達の大合唱がはっきり聞こえてくる。こんなに蝉が鳴いていたんだ。

ミーンミーンミーン!!

あ~~、蝉の声聞いてると夏だって実感するなあってんな場合か!?
現実から逃れようとしていた頭に喝を入れて現実に戻す。
(しかしどうすればいいんだ!? このままでは確実に変態の烙印を押されてしまう!? まずいまずいまずいまずい……ここはここはここはここは……そ、そうだ!! 最後の喜ぶ方法、褒める!!)
俺は魅音に現時点で言える最高の褒め言葉を送った。
「魅音、お前の胸ってホントに柔らか……」
「馬鹿ああぁぁーーーー!!??」
バチーンと言う豪快な衝撃音がしたと同時に俺の首がゴキッと鈍い音をだして体が浮かび上がり、空中で回転しながらだんだんはっきりと痛みが頬と心に出てくるのを覚えながら奥にあった茂みの中へ飲み込まれていった。


へんたーい、へんたーい、へんたーい。
「や、やめてくれーー!?」
圭一君は変態だね、圭一さんは変態ですわね、圭一は変態なのです、圭一は間違いない変態なのです。
「ち、違うんだ!? 誤解だ!? あれは事故なんだ!?」
「圭ちゃん……」
「み、魅音!? あ、あのな、あれは……」
「酷いよ圭ちゃん……」
「えっ……!?」
「ずっと……だったのに……」
「えっ?」
「圭ちゃんの変態ーー!!」
「み、魅音!? 待ってくれ、待ってくれーー!?」
へんたーい、へんたーい、圭一はへ・ん・た・い。
「う、うわああぁぁああぁぁ!?」


「うわああぁぁ!?」
ガバッと起き上がった俺は昨日の監督と繰り広げた生きるか死ぬかの逃走劇を終えた後のようにぜえぜえと荒い呼吸をした。
「い……嫌な夢だった……」
そう呟き、俺は体に被っていた白いシーツを顔に当てる。そこで初めて顔が汗でベタベタだった事に気付いた。
「あ……、そういえばここは?」
シーツのひんやりした感触で頭の熱が冷め、大分落ち着いた俺は自分の居場所を確認しようとする。
「保健室だよ圭ちゃん」
「へっ?」
横から突然聞き覚えのある声がし、振り返る。そこには体操着から制服に着替え終わった魅音が座っていた。
鼻の上に貼ってあった絆創膏もいつの間にかとれている。
「み、魅おっ!? うわっ!?」
俺は魅音の存在に気付くなり反対側の床に驚いた拍子でベットから落ちてしまう。
「だ、大丈夫圭ちゃん!?」
「あたたた……」
打った頭を押さえ、魅音に助け起こされた俺はベットに腰掛ける。
「全く……、圭ちゃんはホント落ち着きがないんだから」
眉を八の字にし、やれやれと言う感じで魅音は腕を組みながら呆れたように言ってくる。
「うぅ、すまん……、って魅音!? さ、さっきは本当に悪かった!?」
「へっ? あ、ああ……、あれは別にいいよ圭ちゃん、確かにびっくりしたけど私もおもいっきりビンタしちゃったし……」
あれが魅音の本気ビンタ……。人の体を軽々と一回転、いや二回転させながら吹っ飛ばす威力があるのか……。
ていうかまだ頬がひりひりする……。
「だ、だけどあれは本当に悪かった、本当にすまない……」
「もう圭ちゃん、私はいいって言ってるんだからこれでおしまいだよ、それとも圭ちゃんのあれは故意にやったていうのかな……?」
「ち、違う!? 断じて違う!? あれは完全な事故なんだ!?」
「別におじさんは故意にやったとしてもいいんだよ、まあその時は圭ちゃんがさっきまで見てた夢の状態になるだけだけど」
魅音が言い終わった瞬間、再び変態の二文字が脳内を飛び回る。
「本当にごめんなさい……」
俺は深々と頭を下げた。


「もう夜だったのか…」
制服に着替え、分校の外に出た俺は夜空に浮かぶ月を見て唖然とする。どうやらかなりの時間寝てた(気絶してた)らしい。
「ほら圭ちゃん、早く帰らないと怒られるよ」
「あ、ああ……」
後ろから出て来た魅音が俺を急かすように言ってくると自身は俺を置いて前に歩き出す。その時俺はある事に気付いた。
なんで魅音はこんな時間まで俺を待っていてくれたんだと。
「なあ魅音……」
「ん、なに圭ちゃん?」
星空の下、魅音がくるりと振り返る。月光が揺れる翠髪を神秘的に輝かし、その美しさに俺の胸が大きくドクンと跳ねる。
(なんだ……この感じ? 鼓動がどんどん大きくなる……)
俺はかつて感じた事のない何かを感じていた。魅音に対して何かを……。
「圭ちゃん、呼んだのに無視すんの」
「えっ!? あ……、その……」
何故かいつも通りの話し方が出来なくなっていた。一体なんで……。
答えの出ない俺の頭は突然今日一日の出来事を振り返らせる。

眼鏡をかけた俺を見て固まった魅音。

分校に着くまで俺を見ていた魅音。

レナに負けじと弁当を作ってくると言ってきた魅音。

事故とはいえ、胸を触った俺を夜になるまで看病してくれた魅音。

他にも今日までに俺に対して必要以上にいろいろな表情、仕種、行動をしてきた魅音。

それは親友だからやる事なのか。仲間だからやる事なのか。
それとも……好きな人だからやる事なのか。

『好きな気持ちはこのうえなく恥ずかしい気持ち、だから私は貴方に素直になれない……』

朝に読んだ小説の一文。今ならその意味が分かる。
だって……今の俺がそうなのだから。
「圭ちゃん?」
ならどうすればいい? 魅音の気持ちに気付き、自分の気持ちに気付いた俺はどうすればいいのか。そう悩んだ時、あの雑誌の内容が思い起こされる。
最後の内容を。

『好きな事を貴方が知り、自分の意思を確認したなら貴方はその女の子に対し、月下で会おうと言うと良い』

(月下……、今はもう月下だよな、それにもう会っているし……、また会うなんておかしいし、一体どういう……ん? まてよ……こうしたら……あっ!?)
「圭ちゃん!」
「うわっ!?」
「もう何ぼーっとしてんのさ、早く帰らないと本当に怒られるよ」
頬を膨らまし、苦言を言ってくる魅音。そんな魅音に対し、俺はある決心をした。
今まで魅音の気持ちに気付けなかったお詫びと言うわけではないが、俺は自分の抑えられない想いを恥を捨てて叫んだ。
「み、魅音!!」
「な、なに? いきなり大声出して……?」
「お、俺は……俺はお前と月下で会いたい!!」
叫び終わった俺は走り出した。無我夢中で。
「け、圭ちゃん!? 何言ってるの!?」
後ろで叫ぶ魅音の声に答えず俺はただその場から走り去る。もうその場にいるだけで心臓が爆発しそうだった。
「なんなのさ~……、月下で会うってもう会ってるじゃん、それになんで月の下で会わなきゃって……ん? 月の下で会う……月…会う……月会う……付き合う……っ!? ちょっ、ちょっと圭ちゃん!?」
言葉の真意に気付いた魅音も走り出す。全速力で。 


「だーーっ!? なんで追い掛けて来るんだよ魅音!?」
「あ、あんな状況で一人にしないでよ!? ていうかさっきの言葉の意味って!?」
「そ、そのまんまの意味だよ!? 俺はお前が好きになっちまったんだからな!?」
「ちょっと!? なんで走りながら告白してるのさ!?」
「恥ずかしいからだ!!」
「圭ちゃんのヘタレ!!」
「ヘタレで結構!!」
「なっ!? じゃ……じゃあ私もヘタレになる!! 私だって圭ちゃんが好き!! 大好き!! 私こそ月下で会って下さい!!」
「う、うわああぁぁ!?」
俺達は走り続けた。お互いの想いを叫び、恥をばらまき、喜びに湧きながら月光に照らされている雛見沢の道を。
ただひたすら……。翌日俺達の叫びを聞いた村人達による凄まじい恥辱の惨劇が待っているとも知らずに……。


『完』

2009/01/31(土) ペパーミントのチョコTips その3、その4

はてブ情報 はてブに登録 はてブ数 2009/01/31 11:41 SS部門KK23
~その3~ 誤解がいっぱい
「あ、母さん、来てたんだ。」
「おや魅音、鬼婆様に何か用かい?」
「え? あ~、え~っと......。 あははははは!」
「笑って誤魔化すって事は何か後ろめたい事でもあるんだね? 正直に言いな。 何やらかした? 母さんは嘘が嫌いだって知ってるだろ?」
「うう......。 いや、別にやらかしちゃいないけど、その~......。 ほら、最近勉強尽くしでちょっと疲れちゃったかな~って。」
そうなのだ。 夏休みが終わってからこっち、私は受験に備えて勉強尽くしの毎日を送っていた。
圭ちゃんが家庭教師をしてくれてて、毎日何時間も一緒にいられるのは嬉しいけど、流石に勉強ばっかじゃ堪えるよ。
特に母さんは一日に何回もちゃんと勉強しているか覗きに来るから凄いプレッシャー。
母さんがこんなに教育熱心だなんて全然思わなかった......。
母さんに内緒で婆っちゃに息抜きさせてとお願いしようとしたんだけど、よりにもよって母さんに出くわすとは......。
「ふ~ん。 それで、どうしたいんだい?」
「え? い、いやぁ~。 普通さ、中学三年生って修学旅行とかってあるんじゃないかなぁ~とか、思ったり思わなかったりして......。」
「旅行に行きたいのかい? でも三年生はあんた一人だろう? まさか一人で行くなんて間抜けな事するわけじゃないだろうね?」
「な、流石にそんな事はしないよ! 折角だから分校生徒全員を対象にして...... 」
「あんた、他の家が簡単に旅行行ける程金持ちじゃないって事くらい分かってんだろう? その辺どうするつもりなのさ?」
「そこを婆っちゃに融通してもらえないかなぁとか、......やっぱり、ちょっと図々しい?」
「ふぅ~ん......。 もちろん、圭一君も一緒なんだよね?」
だから分校生徒全員だって、言ってんじゃん。 なのに、圭ちゃんを特に指名とは、......もしかして母さん、旅行先でも圭ちゃんとしっかり勉強するかって聞いてんのかな? ううう......。
「も、もちろん......」
嘘を付いた後のリスクを考えると恐ろしいので、ちょっとモジモジしながら尻すぼみになってしまった。
旅先で勉強する気は更々無い。 しかし、確かめる術は皆に聞いて回るくらいしかないだろうから、口裏を合わせてもらえれば何とかなる。 頼み込むか、罰ゲームで強制させるか、うん。 なんとかしよう。
「そうかい! そうかい! ついに勝負をかける気になったんだね! 母さん嬉しいよ!」
げげげ! 母さん、そこまで勉強合宿に期待してんの?! こりゃ口裏合わせてもらうにも、"徹夜で寝かせてもらえなかった"、位に話を大げさにしとかないと駄目かな?
「が、頑張るよ、私......」
またもやモジモジしながら尻すぼみに応えてしまう私。 真意がばれない事を切に願う......。
そんな私の回答に、母さんは満面の笑みを浮かべて、婆っちゃへの口添えを約束してくれた。
ちょっとだけ、良心が痛んだ。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------
~その4~ 魅音ちゃん、パニック!
母さんの口添えもあって、奇跡的に分校生徒全員分の旅費を確保した私は、後にあるであろうややこしい事情は一旦忘れて、喜び勇んで皆に修学旅行の件を話した。 ふっふっふ! 皆のその驚いた顔がなんとも言えないねぇ!
行き先は、一昨日の夜から散々悩んだ挙句、東京に決めた。 圭ちゃんの住んでたところを見たかったってのもあるし、......もう一度、行ってみたいところもあったし。
そう、次期当主選定の直前、私たちは一度だけ東京に行った事があったんだ。その時の私はまだ"詩音"で、当主の座を継ぐ事になる"魅音"に思い出を作ってあげるための旅行だった。
趣旨がそんなだったから、私は折角の旅行だというのに、ちょっと蔑ろにされてて、拗ねてフラフラしてたら迷子になっちゃったんだ。 あの時、そんな私に優しくしてくれた男の子がいたんだよね......。  幼いながらもあれって私の初恋だったような気がする......。
でも、今私が好きなのは圭ちゃんだけ!  この旅行を機にあの時の男の子への気持ちを整理して、私は圭ちゃん一筋に生きるのだ!  でもまあ、折角一週間も休みをもらえたワケだし、過去の思い出なんかだけじゃなくって、昨日半徹で行きたい場所リストを作ってみた。 これで新しい思い出を圭ちゃんと作るのだ。
......
「あれ? 魅ぃちゃん、この"目つきの悪い犬の居る神社"って何かな、かな?」
レナの奴、やっぱり鋭いというか、人が特別な思いを込めて書いたものは目ざとく見つけるなぁ。
「一体なんです? お姉? 東京って、雛見沢みたいに神社一つってわけじゃないんですよ? そんな曖昧な情報で特定できるわけないじゃないですか。」
詩音んん~~~!
「オヤシロ様を裏切って、他の神様に懸想している魅ぃには祟りが下るのです。 にぱ~★」
「オヤシロ様はそんな事で祟りなんか起こさないのですよ! 梨花は巫女失格なのですっ!」
はっはっは! 梨花ちゃん、用があるのはそこの神様じゃなくって、その近所の犬と男の子なんだよね。
雛見沢の人間はオヤシロ様を裏切ったりなんかしないって!
「ん~、実はさ、小さい時に一度だけ東京に行った事があるんだけど、そこでなんか良い事があったような気がするんだよ。 神社の名前とか、地名とか全く覚えてないのが不覚なんだけど。」
「"何か良い事"って、良い事の内容まで忘れてしまったんでございますの? 魅音さん、それってちょっと抜けているにも程がありませんこと?」 「むー、沙都子、最近ほんとに物言いが詩音に似てきたー。」
い、言えるワケないじゃん。圭ちゃんの前で、昔だけど他に気になる男の子がいるだなんて事......。
でも、実際あそこを特定する情報が何にもないのも事実なんだよねぇ......。
あ、そうだ。 元都民なら......
「......圭ちゃんはこの神社に心当たり......」
ん? あれ?
「って、何? 顔真っ赤にして?」
......もしかして、圭ちゃんにも好きな子がいたとか?
......
......よし、この際だ。 聞いちゃおう。
事と次第によっては、私も"何か良い事"を思い出しても良いし。
「はは~ん、東京に置いてきた彼女の事でも思い出してるのかなぁ~~?」
「そ、そんなんじゃねぇよ!」
そんな、どもりながらの言い訳が通用するだなんて、よもや思ってやしないよね? 圭ちゃん。 逃がさないよ。
「圭ちゃんのモトカノの話、聞きたい人ー!」
「って、違うって言ってるだろぉお!!」
はっはっは! さあ、話してもらおうか!  シラをきり通すってんなら、部活で白黒つけるよ。 もちろん、追加の罰ゲーム付きで!
......いや、むしろ、そうしたい。
仲間たちの誰かならいざ知らず、私の知らない誰かを好きだなんて、ちょっと許容出来ない。
思いっっきし! 厳しいの、食らわせてやる!  話さないなら......
「......分かった。話す。」
むむむ! 圭ちゃん、大分読めるようになって来たじゃん。
ま、まあ、この圭ちゃんの進歩が今の私達と築いてきた絆なんだって思うと、ちょっと嬉しい。
まだ見ぬ圭ちゃんが気にしているであろう女の子への優越感も沸くというもの。
ちょっとニヤリとしてしまった。
「言っとくが、ずいぶん小さい頃の話だから、彼女とか、そういうんじゃないぞ。」
あ、そうなの? ちょっと安心。
じゃあ、拝聴しようかね。
...
......
.........え?
............え?
...............えええええええええ?!
けっけけけ、圭ちゃんがあの時の男の子ぉおお?!!!
し、ししかも、はははははははははははちゅこいぃぃぃぃぃい??!
あへはひゃふへほ%&*#)(!
あ、いけない、怪しい行動とっちゃダメだ、え~と、あ、そうだ、笑って誤魔化そう。
あっひゃっひゃっひゃ!
......笑うなって、おこられちゃった。
.........は~~~~~~~~~~
うふ、うふふふふふふふフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ
............
...
......
......ん? そっか、圭ちゃん、流石にそれが私だって、気付いてないのかぁ。
......ちょっと残念。
...
......
む~~~~! 圭ちゃんが鈍感とか言うなー!!
......でも、やっぱり嬉しいなぁ。
圭ちゃんがあの男の子だったって事も嬉しい驚きだけど、何より圭ちゃんもあの時の思い出を大事にしていてくれたんだぁ......。
だ、駄目だ。 ニヤニヤが止まらない......。
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ん?
「おんやぁ? 圭ちゃん、レナに何かいけない事したのかい? そんじゃあ罰ゲームだぁ~!」
そうだなぁ~、圭ちゃん、アレが私だって、忘れてるんだし...... よし。
「つーかさ、圭ちゃん、そんな名前も覚えてないような子にはアイスクリームおごって、  私達には何にも無いワケ? そりゃ部活メンバーに対する仁義って奴に欠けんじゃないの~?」
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
「はい! 圭ちゃんの今日の罰ゲームは、皆にアイスクリームをおごる事ー!  いやぁ、今日は暑いし! 楽しみ~!」
アイスクリーム食べてる表情で、圭ちゃん、思い出してくれないかな?
本当に、楽しみ!
 

2009/01/29(木) プチ魅音ちゃん

はてブ情報 はてブに登録 はてブ数 2009/01/28 24:21 イラスト部門蜀天
20090128120526.jpg
ちっちゃくてかあぃい魅音を目標に描いてみました。少しでも可愛いと思ってもらえたら幸いです(汗
しかしデフォルメって簡単なようで難しい……、絵って本当に奥深いです。

2009/01/28(水) UNHAPPY! happy new year!!

はてブ情報 はてブに登録 はてブ数 2009/01/28 19:11 SS部門トロイメライ魅ぃ
 「えへ…えへへ………」 
 「お姉ぇ、どうしたんです?〝ゆるキャラ〟が、さらにユル~~くなってますよ…って、聞こえて無いみたいですね。あ、ヨダレ……(汗)」 
 「へへ……ンあっ!?」 
 乱暴に口の周りを拭かれる感覚で我に返る…テーブル向こうの詩音が、ティッシュを片手に身を乗り出して拭いていた。 
 「あ…ごめん、詩音」 
 「で…今日は、一体何があったんです?まあ、お姉ぇをここまで〝ゆる~~く〟させる事なんて…」 
 ヨダレを拭いたティッシュをゴミ箱に入れながら、横目で私を見る詩音…横目と言うより〝ジト目〟の方が近いかも。 
 「ゆる~~くって…ヒトを〝ご当地キャラ〟みたいに…」  
 「〝ゆる~~く〟というか〝壊れて〟ましたとも!ココに来てからずっと、顔がヤニ下がっているじゃないですか!!直ぐに、自分の世界に入り込むし…頭の中が〝春爛漫〟って感じですね」 
 何か酷い事を言われている様な気がしないでもないが、今の私には気にならない。だって、昨日……えへへ…♪ 
 「…重症ですね。まあ、お姉ぇをここまで〝壊す〟事なんて『1つ』しか思い浮かびませんけど……」 
 十中八九〝呆れた顔〟と答える表情で、ティーカップを手に取り、一口飲んで一言… 
 「…圭ちゃん」 
 ビクッ! 
 「な!な!!な!!!何で…けけけ〝圭ちゃん〟が出て来るのかな?詩音」 
 「魅音…吃りながらしらばっくれても、説得力が皆無。どうせ、昨日…圭ちゃんと〝何か〟あったんでしょ?」 
 ビクビクッ! 
 私の反応に確信を得た詩音が〝ニヤソ〟と笑う。何で部活での〝ポーカーフェース〟は得意なのに…〝圭ちゃんの事〟となると、身体が素直に反応してしまうんだろう?いや…その前に、何で詩音には隠しきれないんだろ? 
 「ん~?何があったのかな?ほれ、お姉さんに話してみなさい♪」 
 詩音の顔は…笑顔なのだが、目だけがニヤけていた。まるで、楽しいオモチャを見つけた時の様に… 
 「………〝黙秘権〟を行使します」 
 覗き込む詩音の視線から逃れる様に、私は〝あさっての方向〟に顔を背けた。 
 「ん~?」 
 「………(プイッ)」 
 「…ん~~?」 
 「…………(プイッ)」 
 「…………ン~~!(怒)」 
 「……………(汗)」 
 目をギラギラさせてテーブルから〝ズズイッ!〟と身を乗り出してくる詩音と目を合わさない様に顔を背ける私…気のせいか、段々と詩音の背後から〝黒い何か〟が垂れ流れてきている気が… 
 「そうですか…言いたくないですか…仕方がありません、この手は使いたくは無かったんですが……」 
 身を乗り出して来るのを止めて座り直した詩音は、座っているクッションの下から1冊の〝皮表紙の本〟を取り出した。 
 〝何だろ、あの本…『つい最近』見た様な気が…どこだっけ?〟 
 私が思考の海に入水している間に、詩音が表紙を開けページをめくる音が聞こえてくる。 
 「……あ、この辺りが良いですね。 
 〇月×日 
 今日の部活は、室内で〝大富豪〟。罰ゲームは〝メイド服を着て、皆の家まで荷物持ち〟と言う事になり、やっぱり圭ちゃんが最下位。 
 メイド服を着た圭ちゃんを見て、お持ち帰りぃぃぃ!と暴走するレナを押さえながら…実は、私の〝乙女のハート〟も暴走しそうだった。もし、私が〝お持ち帰り〟したら…家中の鍵を閉めて、ギュッと抱き締めながら頬擦r『ぎゃあぁぁぁ!!!なななななななに!なに!!なに!!! 何、ヒトの日記を読んでんのよ!!!!!』…やっと気付きましたか?」 
 見覚えもヘッタクレも無い…あれは、私のの日記帳だ。それも…ヒトには見せられない程〝圭ちゃん萌え〟している内容を書き綴っているシロモノ…(汗) 
 詩音は、これの存在を知らない筈。しかも、見つからない様に机の引き出しの奥の方に隠して…引き出しには鍵まで掛けていたのに! 
 「うわ!〝日記の中〟ではラブラブですねぇ…甘過ぎて、無糖の紅茶が丁度良い位ですよ」 
 「う、うっさい!ヒトに無断で持出して来て…返してよ!!」 
 詩音から日記を奪い返そうと、私はテーブルから身を乗り出して手を伸ばす。日記に手が届く瞬間…詩音は私の手から逃れる様に立ち上がると、玄関の方に向かって歩き出そうとする。 
 「ちょっとぉ!日記を持って何処行こうとしてるのさ!!」 
 「いえ…圭ちゃんの家で朗読会をしようと思いまして。お姉ぇ、留守番お願いしますね♪」 
 え?…朗読会?…何を?………え゛!? 
 「うきゃあぁぁぁ!!!あ、あ、あ、あ、アンタ!一体、何をしようとしてんの!!!!」 
 「お姉ぇからは〝面白い話〟は聞けませんでしたが、〝面白いモノ〟を見つけましたから♪この喜びを圭ちゃんと分かち合おうと思いまして…」 
 私の頭に〝圭ちゃんの前で、感情を込めて日記を読み聞かせする詩音〟の姿がリアルに浮かび上がる。コイツは絶対にやる!このまま行かせたら、誰が何と言っても絶対にやる!!そして、それを聞かされた圭ちゃんは………考えたくない(汗) 
 「いやぁぁぁぁ!!!言います!話します!!だから、朗読会だけは止めて下さいぃぃぃ!!!!(激涙)」 
 脚にすがりついて懇願する私。圭ちゃんに〝あの〟日記を読まれたら…生きて行けないよ 
 「分かれば良いんです、分 か れ ば♪ まったく…世話のやける〝妹〟ですねぇ」 
 勝ち誇った様に私を見下ろしていた詩音は…私が何か〝我が儘〟を言ったみたいに溜息をついて、クッションにドサッ!と座り直した。確か私は〝被害者〟の筈なのに…何でこんな事を言われなきゃいけないの? 
 「ん~ふふふ♪さあ!私の気が変わらないうちにチャッチャと吐いて下さいね」 
 「えっと…その……あの……」 
 喉元にサバイバルナイフを突き付けられているみたいに〝生殺与奪権〟を詩音に握られている訳だけと…内容が内容だけに、なかなか話せる状況じゃ無い。そんな状況に焦れて来た詩音は… 
 「……ちょっとTELして来ますね。えっと…圭ちゃんのTEL番は…っと」 
 「!!!!!!言います!言いますから!!(0.2秒)」 
 これ以上引き伸ばしても精神的&肉体的苦痛は増すばかりと悟った私は…昨日、元旦に圭ちゃんを家に招待した事を〝仕方なく〟白状した。 
 「へぇ~、お姉ぇもやりますねぇ。レナさんにけしかけられた形ってのが〝お姉ぇらしい〟と言うか…何にせよ、ヘタレのお姉ぇにしては〝偉大な1歩〟ですよ」 
 「……なによぉ~、その言い方は…」 
 褒めているのか貶しているのか…多分、99%の確率で〝面白がっている〟と思う。うん、これは懸けても良い…だって、澄した様にお茶を飲んでいるけど…目がいやらしく笑ってる。 
 「で…お姉ぇは、圭ちゃんを家に招待して〝どうするつもり〟なんです?」 
 「そりゃ…わ、私の作ったおせちを食べて貰うんだよ…キャッ」 
 私の答えに、顎が外れた様に口を大きく開ける詩音。そして、喉から搾り出す様に… 
 「そ、それだけです……か?」 
 「うん、そうだけど…他に何か?」 
 私がそう言うと、詩音は両腕を机の上に置いたまま俯いてしまった。心無しプルプル震え出した。何か、背中から〝瘴気〟も漏れ出している様な気が… 
 バンッッ!!!! 
 急にテーブルを強く叩いて、詩音が起き上がった。目は血走って、漏れ出していた〝瘴気〟は致死量レベルに達している… 
 「良くまあ、悠長なを言っていられますね!相手は〝口先の魔術師〟!!雛見沢で見境なく〝フラグ〟を立て捲っている圭ちゃんです!! 
レナさんを筆頭に…梨花ちゃま、沙都子、羽入…もしかしたら、知恵先生まで毒牙にかけているかもしれない〝あの〟圭ちゃんですよ!!!〝友達の契り〟を交わしてしまったが為に…後発になってしまったお姉ぇには、厳しい状況になっているという事を分かってます!? 
レナさん達は、あと1年も圭ちゃんと一緒に居られますからアプローチし放題!それに対して、お姉ぇは…もうすぐ卒業してしまうんですよ!!〝ギ〇ス〟だろうと〝ト〇ンザムシステム〟だろうとなりふり構わず使わなきゃ『約束の樹』の下で告白出来ないんです!!!そんな状況で 
 『一緒におせちを食べる〝だけ〟』 
 …まるで、3ヶ月も連載しているのに、話の中では1日も経っていない 
 〝ジ〇ンプのバトル物〟 
 に匹敵する程のトロさ…そんなので、あの〝鈍感キング〟に理解しろと言う方が無理です!!!!みすみす、レナさん達にチャンスを与えて良いんですか!?そんなだから、お姉ぇは 
 〝PC版じゃ攻略出来なかったのに…コンシュマー版じゃ、全クリ後の『おまけシナリオ』で漸く攻略出来る様になった 
 『美少女ゲームのヒロイン』 
 みたい〟 
 と言われるんです!!!少しはメインキャラに昇格しようとは思わないんですか!? 
 そんなヘタレは 
 〝〇原(ゲーム版)second〟 
 と呼んでやろうかぁぁぁぁ!!!!」 
 バン!バン!!バン!!! 
 激しくテーブルを叩きながら顔を近付けて来る詩音の〝なんとも言えない迫力〟に、私は気付かない内に後ろへズリ下がっていた。おまけに、微妙に全身が震えている様な… 
 「い、いや…言いたい事は解るんだけどさ…言っている事が、半分以上理解出来ないと言うか…(汗) 
 昇格も何も…私〝ひぐらし〟の『メインキャラ』だから… 
 それと 
 〝春〇(ゲーム版)second〟 
 は、やめて下さい。〝何故か〟泣きたくなってくるから…」 
 震える身体を押さえながら、ふと思った。 
 〝詩音と圭ちゃんは同じ人種ではないだろうか?〟 
 自分の守備範囲の話になると…2人ともヒートアップして、訳分からない事を口走るから…(汗) 
 「お姉ぇは〝男の子のコト〟を知る必要がありますね。えっと…確かコレに…」 
 詩音はベッドの上に投げてあった雑誌を持出すと、ページをペラペラめくり出した。 
 「えっと…あ、あった!お姉ぇは〝コレ〟を見て勉強しなさい!!」 
 詩音が開いたページには… 
 『気になる彼のキモチをGetしてLOVE×2になろう!』 
 の見出しがデカデカと書いてあった。詩音の部屋にはよく来るけど、雑誌とかは見た事無かったな…へぇ~、こんなのがあるんだ。内容は…あ、手作りの料理はポイントUPだって♪…え!?彼にしか見せない〝オシャレ〟は、鈍感な彼にでも有効!?…ええ~ッ!そんな事もするの!! 
 熱心に記事を読む私の背中に軟らかい感触…気が付くと、詩音が抱き付いてきていた。 
 「ふっふっふ♪じゃあ…〝圭ちゃんの為〟に『特訓』しましょうか、お 姉 ぇ♪」 
 「ふぇっ!?何で?」 
 「いやですね~、圭ちゃんとの仲が上手くいく様に…との〝優しい〟妹心ですよ」 
 …嘘だ。私の〝第六感〟が危険と判断している。コイツは絶対に私で遊ぶつもりだ! 
 「い、いや…詩音も忙しいでしょ?だから…」 
 「〝嫌だ〟と言うのなら、日記を朗読したカセットテープを圭ちゃんに送りますので…そのつもりで。さあ、頑張りましょうね♪」 
 私に逃げ道は存在しない様だ…

2009/01/27(火) この手の中に君の似姿

はてブ情報 はてブに登録 はてブ数 2009/01/27 23:13 SS部門綾月そらひ


 ぴんぽーん。
「はいよー」
 チャイムが鳴って、俺はバタバタと玄関へ急いだ。親が居ないから俺が出なきゃならない、というだけではなくて、俺の客であることが分かっていたからだ。
「よぉ、お疲れさん、魅音」
「ホントだよもう、疲れたよーーぉ」
 玄関を開けるとそこにいたのは予想通り、魅音だった。疲れ切った表情で、両手には大きな買い物袋。俺が頼んだ買い物だ。
「しょうがないだろ? 罰ゲームなんだからさ」
「そりゃもちろん分かってるよ。でも疲れたものは疲れたの!」
 どさっと、魅音は玄関先に買い物袋を置いた。俺はお袋に頼まれていた買い物メモを取り出して、中身を確認する。…えーっと、うん、全部ある…よな?
 俺には理解できない注意書きもされていたメモは、買ってきてくれたものを見てもよく分からなかった。魅音のことだから、ズルをしてるとかはないだろうが。
 …と、確認する俺をじっと見つめる視線があることに気づく。
「な、なんだよ?」
「いや、圭ちゃん、本当に分かってるのかなぁ、と」
「……魅音。これを冷蔵庫に仕舞うの、手伝ってくれ。手伝ってくれたら、疲れた魅音に冷たいお茶を入れてやる」
「圭ちゃんにそう言われちゃぁ、しょうがないなー。手伝ってあげる♪」
 妙に楽しげに、魅音はいそいそと靴を脱いで玄関に上がった。
 …そういえば、我が家に魅音を入れるのは初めてじゃないだろうか。初めて入る人の家って、楽しいよな。うちは見かけはでかいし、探険のし甲斐もあるってものだろう。…うん、たぶん、そんな理由だ。俺はそれとはまた別の理由で、ちょっとドキドキしてたりするが。
「で、圭ちゃん、台所はどっち?」
「あぁ、そっちで合ってるぞ」
 俺と魅音は買い物袋をひとつずつ持って、台所へ向かった。


 買い物の中身の確認は魅音に手伝ってもらって、順調に終わった。冷蔵庫や棚に仕舞うのも、人の家だというのに何故か魅音には定位置が分かるらしく、あっという間に終わる。…恐るべし、園崎魅音。
 最後に魅音が買い物袋から取り出したのは、台所用品ではなかった。小さいが重そうな紙箱だ。上部に持ち手が付いている。
「はい、これで最後。洗濯石けん・無香料ね。圭ちゃんのおばさまって、石けん派なんだねー」
「…石けん派?」
「これ、洗濯機用の石けんだよ。石けんだと石けんカスがたくさん出るから大変でしょ? だから最近じゃぁ、洗濯機用の液体化学洗剤が主流なの」
「ふーん?」
「ま、化学洗剤なんて、何が含まれてるか分かんないからねぇ。洗濯石けん、しかも無香料となると、おばさま、自然主義なのかな」
 魅音は一人でうんうんと頷いている。…俺にはよく分からないが。
 とにかくそれで最後なので、俺は食器棚からコップを2つ出すと、冷蔵庫でよく冷やした麦茶を注いだ。ひとつを魅音に手渡す。
「ほい、魅音」
「ありがと。疲れた後のこの一杯がおいしいんだよねー」
「…それ、ただの麦茶だぞ」
 まるで仕事の後のビールを飲んでいるかのような魅音の台詞にツッコミを入れながら、俺は自分の分を飲み干す。
「でも、おかげで早く終わったよ。さんきゅーな」
「へへーん。こんなのおじさんにかかれば軽いもんだよ」
 魅音はちょっと自慢げに胸を張る。…そういう仕草が、すごく魅音らしい。
「じゃ、俺はこれ、洗濯機の横にでも置いてくるから。のんびりしててくれ」
「はーい。いってらっしゃーい」
 魅音は返事をして、物珍しそうにきょろきょろと部屋の中を見ていた。…まぁ台所や居間はいつもそれなりに片付いてるし、多少漁られたところで大丈夫だろう。


 我が家の洗濯機は、風呂場の脱衣所にある。風呂のお湯を再利用するとかで、その位置なのだ。脱いだものをそのまま置いておけばいいので、俺にとっても楽な配置だった。
 えーっと、たしかこの棚に洗剤を入れていたはず…、…お、ここかな。
 もうほとんどカラになっている「洗濯石けん・無香料」を見つけて、その隣に新しいのを置く。…無香料って言うからには、香料付きのもあるんだろうな。俺が買い物に行ってたら、間違ってそっちを買ってそうだ。魅音に行ってもらえて助かった。
 …罰ゲームだから魅音に全部任せちゃったけど、本当は、魅音一人に任すんじゃなくて……、
 そのとき、廊下の向こうから魅音の声が聞こえた。
「圭ちゃーん。圭ちゃんの部屋って、2階ー?」
「あぁ、そうだけど…、…って、おい、まさか…!」
 反射的に大声で言い返してしまって、途中で気づく。あの悪戯好きの魅音が、俺んちに来て一人待たされて、何もしないなんてことあるわけない…!!


 俺は慌てて廊下を疾走し、居間に戻る。ぐるりと見回したが、魅音は居ない。階段の方を振り返ると、ちょうど魅音が階段をそろそろと上り、2階へ辿り着こうとしているところだった。
「まっ、待て、魅音! 2階へは行くな!」
「やーだよー。私を一人にした圭ちゃんが迂闊だったね!」
「確かに俺もそう思うが、俺の部屋には入るな! きっ、汚いから! 片付けとかしてなくてすげぇ汚いから!!」
「くっくっく、上等上等。ベッドの下とか押し入れの中とかは見ないからさ~」
 思春期の少年がアレなものを隠しているお決まりの場所を告げて、魅音が嫌らしそうに笑う。
 いやっ、そんな場所じゃなくて、もう部屋の襖を開けた瞬間に見える場所にやばいものがあるんだよ!!
 本当に迂闊だった! 魅音に買い物を頼むという罰ゲームが決まった瞬間に、アレを片付けておくんだった…!!
 やばい、絶対やばい。アレを見られたら、言い訳なんか出来ない。だが魅音は既に階段の上で、2階の廊下に足を付けている。俺の部屋は2階に上がってすぐの部屋だ。そして俺はまだ1階。
 …間に合わない…!?!
「魅音、頼む! 一生のお願いだ! その襖を開けないでくれ!!」
「あ、圭ちゃんの部屋、ここなんだ? そう言われちゃぁ、開けないわけにはいかないよねぇ~」

 ぐぁぁあ、しまったぁぁあ?!

 魅音はわくわくした表情で、襖の戸口に手をかけた。
 俺はようやく階段を駆け上って2階に辿り着く。が。その時にはもう魅音は戸を開け放って、俺の部屋の中をきょろきょろと見回していた。
 …もうダメだ。バレてしまう…!!
「まー確かに片付いてはないけど、圭ちゃんがそんなに慌てるほどじゃぁ…、…あれ?」
 魅音の声が、止まる。視線は、案の定、俺が勉強机に使っているテーブルの向こうの壁だった。
 …あぁぁあああ。バレた。もう死にたい。ていうか死ぬ。
 よりにもよって、魅音に見つかるなんて…!!
「…圭ちゃん、壁にたくさん貼ってあるあの写真、何?」
 魅音がひょいと俺を振り返った。…俺は何も答えられない。
 答えない俺に首を傾げて、魅音は部屋の中に入ると、机の前に立って、じーっと、壁に貼りまくっているその写真たちを見つめた。お、お願いだから見ないでくれぇ…。
「…これ、私たちの写真…だよね。服装とか背景とかから考えるに、2月か3月くらい? なんでこんなの持ってんの?」
 それらの写真の、とある共通項には、魅音はまだ気づいていないようだった。それよりも、何故、俺が引っ越してくるよりも前の部活メンバーの写真を俺が持っているかの方が疑問だったらしい。
 …魅音が鈍感で助かった。内心で胸を撫で下ろすが、安心は出来ない。だって、パッと見たら分かることなんだよ、その共通項は。あぁぁ、俺、もう死んだ。
 俺が相変わらず魅音の疑問に答えないので、魅音はじっと写真を見つめ直した。…て、適当なことを答えて気を逸らした方がよかったか…?
「…ねぇ、圭ちゃん」
「な、なんだよ」
「気のせいかもしれないんだけど、…その、私が写ってる写真ばっかり貼ってない…?」


 ……気づかれた。



 その人に会ったのは、先日、たまたま一人になった帰り道だった。
 雛見沢では見慣れない、少しガタイのいい男性。道ばたに自転車を止めて、カメラ片手に、木に留まっている野鳥をじっと見つめていた。
 ふと目が合ったので軽く会釈すると、向こうから声をかけてきたのだ。
「やぁ、こんにちは。君は雛見沢の人かい?」
「そうですけど…。どちらさまです?」
「僕は富竹。フリーのカメラマンさ。雛見沢にはよく来るんだけど、君とは初めて会うよね」
「…まぁ、最近引っ越してきたところなので」
「そうなのかい! 住んでる人に言うのもなんだけど、雛見沢はいいところだよ。移り変わる自然が綺麗でねぇ、何回来ても飽きないよ。いつも違う顔を見せてくれる」
 富竹と名乗ったその人は、嬉しそうに語った。
 最初は妙に馴れ馴れしい人だな、と思ったんだが。雛見沢の良さを分かってる人に悪い人はいないよな、と思ったんだ。
「…写真家さんなんですか?」
「写真家を目指して投稿を繰り返してると言った方が正しいんだけどね、あっはっは。主に野鳥や自然を撮ってるよ」
 じゃぁ、雛見沢の素晴らしい自然とか、そういうのを撮っているんだろうな。俺はまだここに来て一ヶ月も経っていないから、この初夏しか知らないけれど。
 …ふと、疑問に思って聞いてみる。
「人間は撮らないんですか?」
「そんなことはないよ。ここに来た記念に、出会った人たちの写真を撮って、次に来るときに渡したりしてる。…あぁ、魅音ちゃんとかレナちゃんとか、知ってるかな?」
「えぇ、分校のクラスメイトですから」
「ちょうど今、前回来たときの写真を持ってるんだよ。会ったときに渡そうと思ってね。ほら」
 富竹さんはバッグから小さなファイルを取り出した。カメラ屋さんで現像したときにくれる、小さいアルバムだ。

 手渡されたそれをパラパラとめくると、部活メンバーや村の子供たちや老人たちの写った写真が入っていた。季節は冬、なんだろうか。背景は真っ白で、どこで撮った写真なのか全然分からない。
「前に来た時って、冬なんですか?」
「東京じゃぁもうそれなりに暖かい頃なんだけどねぇ。雛見沢は豪雪地帯だから、雪ばっかりだろう?」
 そう言いながらも、富竹さんはこれはどこだとか嬉しそうに解説してくれた。本当に、雛見沢が好きなんだな。
 めくっていくと、部活メンバーが、おそらく部活をしてるのだろう、楽しげにはしゃいでいる写真もあった。魅音が雪玉を当てられて、それでも楽しそうに笑っている。
「…あの、富竹さん。この写真、皆に渡すんですか?」
「うん、そのつもりだけど?」
「……あのー、1枚だけ、もらえないですかね」
「え? いいけど、どれだい?」
 富竹さんが不思議そうに聞いてくる。…そりゃ、自分の写ってない、他人ばっかり写ってる写真なんて、普通はくれとは言わないよな。
「…その、それ…」
 指差したのはさっきの、雪玉を当てられて、それでも笑ってる魅音のアップの写真だった。
 写真を示す指先が震える。顔は真っ赤になってるかもしれない。…それでも、その眩しい笑顔の魅音の写真が、欲しかった。
 富竹さんは一瞬きょとんとしたが、俺の顔を見るとニヤニヤと笑った。
「あぁ、なんだ、そういうことかい? じゃぁ魅音ちゃんが写ってるの、全部あげるよ。皆には、今回は忘れてきたって言っておくからさ」
「…え?! あの…!」
「いいからいいから。皆には次に来たときに渡せばいいけど、君には今必要なものだろう? 何かイベントがない限り、クラスメイトと写真なんて撮らないからねぇ」
 富竹さんはアルバムの中から魅音が写っているものを順に取り出して、ひょいひょいと俺に手渡していく。俺は自分の言葉が引き起こしたこの事態に付いていけなくて、顔を真っ赤にしたまま固まっていた。
「はい、これで全部かな」
「あ、ああありがとうございます…!」
 俺の手に渡されたのは、全部で10枚もない。せいぜい5~6枚だ。それでも、初めて手に入れた魅音の写真だった。
「そうだ、君の名前は?」
「ま、前原圭一です」
「圭一くんか。うまくいくといいね。じゃ、また」
「富竹さん! ありがとうございました!」
 俺は自転車で去っていく富竹さんの後ろ姿に、頭を下げた。



「…と、いうわけだ」
 何故自分の机の前の壁に魅音の写真ばっかり貼ってるのか、俺はなんとか説明し終えた。多分、顔は真っ赤になってるだろう。
 …あぁ、こんなことで言う羽目になるなんて思わなかった。まさか俺が魅音をそんなふうに想ってるなんて、思ってもなかっただろうな。なんて言われるだろう。あきれられるだろうか。
 魅音は説明を聞き終わってもまだ混乱しているようで、しばらく呆然としていた。
「……え、えぇっと、じゃぁ、富竹さんが今回現像持ってくるの忘れたって言ってたのは、嘘で…、…私の写真は全部圭ちゃんが持ってて、ここに貼られてる…?」
「…そうだよ」
「な、なななななんで?!」
 なんで、と来るとは思わなかった。それも全部口に出して説明しろと言うのだろうか。今の段階で、もう顔から火を噴きそうなほどの恥ずかしさで死にそうなんだが。
「…お前なぁ、そんなもん、理由なんて一個しかないだろ?」
「えっ、えぇっと、圭ちゃんはポニーテールフェチの変態だったとか!」
「違う!!!」
 ワケの分からないことを言い出した魅音に、全力で否定する。そんなわけないだろう! お前だから、お前の写真だからだよ…!!
 それで魅音はようやく「理由」を分かってくれたのか、ぼん、と真っ赤になった。ばたばたと両腕を上下させて暴れる。
「ぅえぇぇええ?! だ、だだだだって…!」
「…別に返事はいいよ。バレたのは不慮の事故だし。直接言う気はまだなかったし。ここで見たことは忘れてくれていいから」
 毎日一緒に登校して、遊んで、一緒に帰る。それだけで満足していたんだ。
 それなのに偶然、幸運にも君の写真を手にすることが出来た。
 こうやって壁に写真を貼って、…家に帰ってからも、宿題をするためにノートを広げるたびに君を見つめられる。変かもしれないけれど、それだけでじゅうぶん幸せだった。
 だって、出会ってから、まだほんの何週間かで。告げるにはきっと早すぎる。それに、今のこの関係が壊れてしまうのが怖くて、そんな勇気も出なかった。俺は、弱虫なんだよ。
 …だから、こうやって不意に告げる羽目になってしまって、魅音がどう返してくるのか、怖かった。嫌われたらどうしよう、友達ですらいられなくなったらどうしよう。そんなマイナスなことばかりが脳裏に浮かぶ。それならいっそ、無かったことにする方がいい。…だから、忘れてくれていいなんて、情けない台詞が口から出た。
「…で、でも…」
 魅音は両手を体の前で合わせて、俯く。「でも」だなんて、何に対する逆接なのか。…怖い。手が汗ばむ。膝がわらう。泣きそうになるのは、なんとか堪えた。
「……ごめん。勝手にお前の写真、べたべた貼っててさ。…気持ち悪いよな。外すよ」
「じゃなくて、その…、えっと…」
「気に障ったんなら、これ、返すから。本当にごめん」
「…ち、違…」
 壁に貼った写真を取ろうとしたとき、魅音がきゅっと、俺のシャツを引っ張った。
「な、なんだよ?」
 俺は振り返って、魅音を見る。
 魅音は俯いたままだったが、意を決したように、か細い声を振り絞った。
「…け、圭ちゃん。…あの、そ、その私の写真は、圭ちゃんが持っててくれていい…、ううん、持ってて欲しい、な…」
「……………え?」
「だ、だから、こ、今度、富竹さんに写真撮ってもらってよ…。…げ、現像できたら、私、それ、もらうから…」
 俺が何故魅音の写真を持っているのか分かっていて、それでもなおかつ持ってて欲しいって、…いや待て、今、魅音は、俺の写真が欲しいって……。…えっと、それって、つまり…。
「…………魅音、それ、…返事…?」
 呆然と呟いた俺に、魅音は顔を上げて、真っ赤な顔のまま、こくんと頷いた。


 膝の力がかくんと抜けて、俺はその場にへたり込む。目に涙が滲んだ。
「あ、あはははははは」
 マジかよ。やべぇ。嬉しい。なんで、こんな、出会ってからたった数週間で。最高の日が?
 いきなり気の抜けた俺を、魅音がおろおろと様子を窺ってくる。
「け、圭ちゃん? どしたの、大丈夫? そ、それとも私何か変だった?」
 へたり込んだ俺の目線に合わせて魅音もしゃがむと、俺の顔を覗き込んできた。
 毎日会ってたけど、家に帰ってからもずっと見つめ続けていた、魅音の顔が。少し手を伸ばせば届くほど、すぐ近くにあった。
 …あぁ。これ、夢じゃないよな?
 それを確認したくて、俺は手を伸ばして、魅音の頬に触れる。…途端に、魅音が沸騰した。
「け、け、け、けいちゃん?!」
「はは、夢じゃない、本物の魅音だ…」
 もう一方の手も伸ばして、両手で魅音の頬を包み込んだ。柔らかくてあたたかい。…宗教なんて、信じてないけど。もし神様がいるのなら。今は感謝しよう。魅音と出会えたことを。
 その魅音は俺が頬に触れた体勢のまま、固まっていた。顔は真っ赤で、はは、ゆでだこみたいだ。たぶん人のこと言えないけどさ。
 こんな間近に君と二人で居られて、今日はなんて素敵な日なんだろう。
「…ありがとう、魅音」
 その言葉に、魅音も感極まったかのように涙目になって、それから、ふわっと、笑った。…あぁ、この笑顔も、写真に納めておきたい。ずっと、大事にしておきたい。
「カメラが欲しいな」
「…え?」
「今の、魅音の笑顔。記憶だけにとどめるには、もったいなさすぎるよ。ちゃんと保存しておきたい」
「…………っ」
 魅音がまた固まる。…照れてるのかな。今まで、皆の前ではこんなに狼狽えているところは見たことがない。初めて見る魅音だった。
 …あぁ、こんな魅音が見れるのなら。バレて良かった。…受け入れてもらえて、本当に良かった。
「前に一緒に虹見たときもさ、思ったんだ。カメラがあればな、って」
 あのとき既に、俺の心は魅音に奪われっぱなしだった。ほんのわずかな時間だけど魅音と二人で居られて、いつもより少しだけ魅音が近くて、…そんな時間が終わってしまうのが惜しかった。だから精一杯の勇気を振り絞って、なんでもないフリをして手を取ったんだ。
 それ以上のことなんて、とてもできなかったけれど。それでも二人だけで見た虹は、忘れたくなかった。俺と魅音の、二人だけの記憶だから。
「…ぁ。わ、私も思った…」
 ぽそっと、魅音が小さな声で呟く。同じことを思っていたと分かって、心が躍る。次に思ったときは、思うだけでは終わらせたくない。
「じゃぁ、今度買うよ。そんなにいいものじゃなくてもいいから、小遣いをはたけば何かは買えるだろ。そうしたら一番に魅音を撮るよ」
「う、うん」
「タイマー機能を使ってさ、一緒に写ろう」
「うん…!」
 魅音が、最高の笑顔で笑う。今はまだカメラはないけれど。心のカメラに刻みつけよう。きっと、一生忘れない。今日が俺と魅音の、はじまりの記念日だから。
 俺は魅音の頬に触れていた手を更に伸ばして、この手の中に君を収めた。



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09.2.7 加筆修正しました